×お妙

□トラユリ
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好きな人に好きな人が居る。

そんな話は、この世の中に掃いて捨てるほど溢れている。
この恋も、そんな中のひとつに過ぎい。


「あのー、お嬢さん?ちょっと俺の扱いが酷すぎません!?」
「そうですね、今日はお買い物日和です」
「ねえ、俺の話聞いてる!?」
「まあ、可愛らしい赤ちゃんね」


銀時は明らかに一人で持つには多すぎる量の荷物を持たされていた。
対して、お妙が持っているのは軽いビニール袋一つ。

しかしいくら抗議しても妙の耳には入らない様だ。
銀時は小さく溜め息を吐いた。

一回り近くも年下の華奢な少女に、嘗て白夜叉と恐れられた男が逆らえない。
それは、やはり惚れた弱みと言うものだろうか。


「最近ポイ捨ても減ってきたみたいですね。道
が綺麗ですもの」
「下なんかいちいち見てねぇよ」
「前は空き缶とかが落ちていて危なかったんですよ。煙草の吸い殻もあったし」
「あ、そ」
「煙草を吸う人か減ってますものね」
「こんな時期でも花って咲いてんだな」


銀時は無理矢理に話題を変える。
煙草の話をした彼女の瞳が遠くを見つめるのがわかったから。

何とか自分の方に意識を持ってこさせて、。
できるだけ彼女が興味を持ち、尚且つ彼奴からできるだけ離れるような話題にする。


「綺麗な花ですね。何て言うのかしら?」
「さあな」
「銀さんは花より団子ですものね」


可笑しそうにくすくす笑う彼女が可愛くて、照れ隠しに頭を掻きむしる。
少女は立ち上がり再び前を向く。

銀時の表情の変化には気づかず、先に見つけた影を呼ぶ。


「土方さん」


笑顔で手を振るお妙に、紫煙をくゆらせながら振り向く男。
少女がその人を見る瞳は、先程までとはまるで違う。
それを見て、銀時は絶望し、歩き出そうとするお妙に手を伸ばす、が。

その手は何も掴むことなく、離れていく愛しい背中。
喪失感、何とも言えない虚しさが男を包んでゆく。
ドサドサ、と片手を動かした性で荷物が落ちる。


「よう」
「こんにちは、お仕事ですか?」
「いや、今日はもう上がりだ」
「そうなんですか。何かご予定は?」
「特にねぇよ、急な休みだったし」
「まあ、それなら家でお茶でもいかがですか?」
「どういう風の吹き回しだ」
「電球が切れてしまって、男手が必要なんです。
銀さんに頼もうと思ったんですけど、あれでも仕事中なので」


土方が奥で呆然として居た銀時に気づくと、銀時は荷物を抱え直して二人に近寄る。
決して悟られないように、いつもの調子で。


「人助けも万事屋の仕事の一環だから、こんな奴に頼むことねぇよ」
「でも」
「餓鬼共が待ってんだろ。
どうせコイツのとこ行く気だったんだ、俺が引き受ける」
「私のところに?」
「近藤さんが居なくなったからもし見かけたら連絡くれとさ」
「ああ、またですか」
「つうことだから、代わる」


土方は銀時の持っている物を引き受ける。
妙も打って変わって自ら手伝う。

荷物も失って、銀時の腕は情けなく下がる。


「そっちも持つか?」
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「随分と買い込んだな」
「今日特売日だったんですよ。
冷蔵庫の中が何もなかったから、ちょうどよかったです

銀さん、ありがとうございました。
お仕事、ちゃんと、やって下さいね」


軽く会釈をして、お妙はそのまま土方と肩を並べて歩いて行く。
距離は遠くなってゆく一方で、銀時は何もできない。
主婦達の話声が聞こえる。「まあ、美男美女なご夫婦ね」

ちくりと胸が痛んだ。いつか、本当にそうなってしまうのだろうか。

もうだいぶ小さくなってしまった後ろ姿を見つめながら思うのだ。
嗚呼、


「俺より様になってんじゃねぇか畜生…」


彼女の隣にあの憎らしい男はなんて似合うのだろう。
それがまるでお前など入る隙がないと言われている様で、銀時は拳を固く握った。


「つうか弟手伝わせればいいんじゃねぇか」
「新ちゃんと私なら力も背もあまり変わりませんから」
「ああ──。近藤さんなら喜んで飛んでくと思うぜ」
「土方さんたら二言目には近藤さん近藤さんって、
他に私に言うことはないんですか」
「俺とアンタの関係なんざ、あの人あってのもんだろ」
「…そんなじゃあなたも結婚できませんよ」
「もともとする気もねぇよ」


土方が軽く笑うのに反して、お妙は思わず立ち止まり顔を歪める、
今にも泣き出しそうに。
しかし直ぐに平静を装って笑う。


「もし孤独死が怖くなったら私が結婚してさしあげてもいいですよ」
「俺じゃなく近藤さんに言ってやってくれ」


お妙は気づいていた、土方の瞳が自分を見ていないことを。
彼の瞳は、心は、今もきっとこれからも、彼女から離れることはないのだろう。

それでも、と。


「少しくらいこっち向いて下さいよ…っ」


お妙のその言葉は届くことなく、溜め息に変わる


無理だとわかっていても、ねぇ、─────




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