×お妙

□片恋ばーすでい
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10月31日、
クリスマスやバレンタインは外国からきたくせに広まらなかった行事、ハロウィンの日である。

でも、それ以前に


「おはよう、九ちゃん、神楽ちゃん」
「姉御!」
「妙ちゃん」
「「誕生日おめでとう!」」


今日は、私の誕生日だ。


片 恋 ば ー す で い


誕生日とは、その人にとって特別なものであることが多い。小さい子供や恋人が居る人なんかは特にそうだろう。私は恋人は居ない。小さい子供でもない。だけど、仲のいい友達や唯一の肉親である弟が精一杯に祝ってくれることはとても幸せだ。でも。
私は今とてもドキドキしている。それは、好きな人が居るからだ。

恋人なら、まず祝ってくれるだろう。しかし、好きな人となるとそうもいかない。
祝ってくれなくてもいい。せめて、話したい。いっぱい話せるかな。


「お妙、ハッピーバースデーあんどハロウィン!」
「まあ、ありがとう、美味しそうね」
「志村さん、僕からもこれ!」
「ありがとう、近藤くん。開けてもいい?」
「はい、もちろん!
それ、今人気の映画で、一緒に」
「これちょうど見たかったんです、友達誘って行きますね」
「いえ、俺と」
「ありがとうございました」
「ですから、俺」
「ありがとうございました」 
「…いえ、そんな、どういたしまして」


さっきから話は聞こえているはずなのに、こちらを見向きもしない彼。もちろん私達は特別仲が良いわけではないから、話さない日も当たり前にあるのだけど。
せめて挨拶くらいしたかったけど、全然近くに居ない。私からしたのではなんだが違う。やっぱり今日くらい相手から話しかけて欲しい。


「姉御どうかしたアルか?」
「なんでもないわ
それより神楽ちゃん、今日日直よ」
「げ」
「私も手伝うから、先生が来る前に黒板消しちゃいましょう」


わかってる、彼の中で私が何てことない存在だと言うことくらい。それでもやっぱり期待せずにいられないのは、恋のせいなのだろうか。


「何とか間に合ったネ!
ありがとうアル姉御」
「ふふっ、どういたしまして」
「あ、そうだ!
今日の放課後皆でバイキングに行くアル、もちろん姉御の誕生日パーティーネ!」
「まあ、いいの?」


夕飯は新ちゃんが用意してくれるけど、それでも私が楽しそうにすると新ちゃんも喜んでくれる。なんて優しい弟だろうと思う。
あんまり遅くならなければいいし、新ちゃんは次の日でも祝ってくれる。


「それじゃあ放課後裏門で待ってるアルヨー!」


そう言ってお互い席に着く。先生の話を聞かず、思考はどうしても彼の方を向く。
放課後空けておいても彼が祝ってくれる訳でもないし。それどころか今日は一言も話せない気がしてきた。
でも、でも。もしかしたら。

そんな、何の根拠もない期待。現実を見た失望。
片思いって、なんて疲れるんだろう。

そして私の予感は的中し、とうとう帰りのホームルームも終わって神楽ちゃん達との待ち合わせ場所に向かった。

彼とは話すどころか目も合ってない。
思わず溜息が零れた。

私達は今、高校二年生。しかも、もう10月。三年生に上がるときにクラス変えがある。一緒になれないかもしれない。そもそも、三年生になれば彼はきっと勉強で、私のことなんか忘れてしまうかもしれない。
気持ちが焦る。あの人と離れたくない。傍にいたい──。


「あ」
「!土方くん!」
「よお」


彼も驚いている。けど一番驚いているのは私だ。どうしてここに?何で?でも、嬉しい。すごくすごく嬉しい、会えた、言葉を交わせた。会話、続けないと!


「何してんだ?こんな所で」
「あ、えっと、神楽ちゃん達と待ち合わせしてて
土方くんこそ、どうしてここに?」
「総悟に呼ばれてな」
「そうなの」
「総悟に会わなかったか?」
「会ってないわ」


彼のケータイが鳴る。黙って聞いていると、相手は沖田くんらしい。なんだ、もう行っちゃうのか。少し落胆していると、私も神楽ちゃんからメールが届く。
“ハッピーバースデー姉御!私たちはもう祝ったから、あとはマヨに祝ってもらうヨロシ。姉御もその方が嬉しいでしょ?楽しむネ!私たちからのプレゼントアル!”


「え…」


いつの間にバレてたんだろう。誰が知ってるんだろう。恥ずかしい、ひょっとして新ちゃんにもバレてるのかしら。でも、でも、すごく嬉しい。ありがとう、神楽ちゃん、みんな。


「えーと、志村」
「あ、はい!」
「腹空いてねぇか?チャイナ達との約束なくなったんだろ?」
「あ、うん。えっと…沖田くんから聞いたの?」
「ああ」
「そう。お腹、空いちゃった」
「何か食いに行くか、何がいい?奢ってやるよ」
「え、そんな、いいわ、自分で払う」
「いいから、気にすんな。今日誕生日だろ」
「まあ、知ってたのね。それも沖田くんから?」
「前から知ってた」
「え?」
「ほら、行くぞ」


彼の耳はほんのり赤い。これは、期待してもいいのかしら?
みんながくれたプレゼント(チャンス)、無駄にはしないから。私、勇気を出してみようかな。でも、今は。彼が祝ってくれる幸せに浸っていたい。好きと伝えるのは、まだ無理だから。

ねぇ、誕生日って甘やかしてくれるあなたに、我が儘言ってもいいかな?
好きって言ってほしいの。


-fin-
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