×お妙

□親愛なる幼馴染み
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俺と妙は、隣の家に住んでいる。記憶のある限り全て一緒にいる。保育園の頃は二人でよく木に登ったりサッカーしたりして遊んだ。小学校にあがると小二までは二人で登校した。小三からは志村(新八)と総悟と四人で登校した。中学になると、俺が部活の朝練があるから一緒に登校することはほとんどなくなったが、たまに一緒に帰ったりすることもあったし、互いの家に行ったり図書館に行ったりして二人で勉強した。部活を引退してからは妙と早めに登校して勉強、放課後も残って勉強して、帰ってからも勉強。度々妙の手作り夜食を貰った。合格祈願も合格発表も一緒に行ったし、高校に入ってからも互いの家に行き来きしたり、関係性は何一つ変わらない。俺たちは所謂幼馴染みだ。

妙には弟の新八も居るが、同い年なのと性格から、俺は妙の方が仲がいい。餓鬼の頃は俺の誕生日にケーキを作ってくれたりした。中学からそれはなくなったが、今でも毎年互いの誕生日にはプレゼントを贈り合う。

だから今年も、そうだと思っていた。



───5月4日

「十四郎、明日も部活?」
「ああ」
「私も明日、学校に行かなくちゃ行けないの。
何時から?」
「9時。妙は?」
「8時半」
「じゃあ一緒に行くか」
「いいの?」
「どうせ早めに行かなきゃなんねぇからな」

二人で宿題をやっている。俺達は高二、志村と総悟は今年受験だ。志村はどうかわからないが、総悟は恐らく、近藤さんの通っていた高校に行くだろう。因みに、近藤さんは今大学二年生だ。

「今年も帰ってくるのが大変そうね、十四郎は」
「考えただけで面倒くせぇ」
「そういえば、手作りのお菓子とかは毎年どうしてるの?」
「あー、山崎とか、剣道部の奴らに食わせてる」
「かわいそう、気合いの入ってるものばかりでしょう?」
「まあ、たしかにお前よりはうめぇよ、どいつも」

カリカリと文字を書いていた手が止まる。じとりと見られているのがわかったので俺も見返す。

「悪かったわね、下手くそで」
「は?何だよ、急に」
「十四郎だって、私の料理マヨネーズをかけなきゃ食べられないんでしょ」
「何怒ってんだよ」
「怒ってないわ」
「怒ってんだろ!」
「十四郎こそ、すぐ怒る」
「あ?何だよそれ」
「だから彼女もいないのよ」
「お前こそ、そんな可愛げねぇこと言ってるからいつまで経っても彼氏できねぇんだよ」
「余計なお世話」
「あ?お前が…」
「もういい、帰る」

何だよ、急に怒りやがって。
バタンと勢いよく扉の閉まる音がした。

────────────────────────────…

7時に起床し登校の準備し。妙の家に迎えにいく。
たまに周囲に言われるが、俺の家に妙が迎えに来るなんてことはない。当然、起こしに来ることもない。また、その逆もない。何故なら、俺も妙も寝坊しないからだ。

チャイムを押すと、志村が出てきた。

「あ、土方さん。おはようございます」
「おう。妙は?」
「委員の仕事があるからって、学校行きました」
「まだ怒ってんのか…」
「え?」
「いや、何でもねぇ。邪魔したな」

あいつは何をそんなに怒ってんだ?沸点がわからない。
俺が謝るべきなんだろうが、何が悪いかわからずに謝るのは逆効果だ。つうか、一緒に行くっつってたんだから一言メールくらいよこせよな。俺が謝る必要もねぇ気がする。

そうだ、こうやっていつも俺が折れるからこうなったんだ。たまには向こうから謝ってもらってもいいはずだ。女だからって、少々甘やかしていたかもしれない。

「あ、土方さんおはようございます」

山崎に会った。何となくイライラしたから殴った。何か言っているが無視して部室に向かった。山崎も後を着いてくる。

「あれ、そういえば今日は姐さんと一緒じゃないんですね。
確か登校してきてましたけど」
「あ?だから何だよ」
「ひっ…すみません、いつもならこういうとき一緒に登校してくるのにな、と思って」
「一緒じゃなきゃ悪ィかよ」
「いや、そうじゃないですけど…特に今日は絶対一緒だと思ってたもので」

もう一回山崎を殴って部活に没頭した。

別に、あいつのことなんか気になんねぇし、関係ねぇし。誕生日だからってあいつと過ごさなきゃいけないっつうわけでもない、ただの幼馴染みなんだから。そう、ただの幼馴染み。

いつかはそれぞれ誰かと付き合って、そしたら俺の誕生日を祝うのは妙じゃなくなる。妙の誕生日を祝うのは、まだ見ぬ誰かになる。所詮、それだけの関係。


「トシストォォォォォップ!
どうした、荒れてるな」
「何でもないです」
「原田、大丈夫か」
「は、はい」


────────────────────────────…

「うわ、相変わらずすごい人気ですね」
「うっせぇ」

ギャーギャーと騒いでプレゼントを押しつけてくる奴らを蹴散らして何とか下駄箱に辿り着く。毎回懲りねぇな、女ってのは。
苛つきながら自分の番号が書かれところを開く。そこで俺はまたため息を吐いた。

「ったく、誰だよ下駄箱に入れるなんて古風な…」
「現実で起きるんですね〜。
あっ、土方さん!?」

本っ当、アイツは昔から意地っ張りでかわいげがない。餓鬼の頃から好きでしょっちゅう料理してる癖に、弟の方ばかり上手くなってアイツはちっとも上達しやしねぇ。下駄箱何かに入れないで直接渡しに来いよな、どうせ家も隣なんだし。せめて名前くらい書けっつの。

「妙」

インターフォンを押して呼んだが、返事がない。鍵もかかってる。仕方がないからもう一回押した。すると、何、と少し拗ねた声がインターフォンから届く。

「名前くらい書けよ」
『…』
「美味いよ、クッキー」
『嘘つき』
「嘘じゃねぇよ、
せっかくマヨもセットでくれたけど、もったいなくてかけれねぇ」
『何よ、急に』
「お前が何で怒ってんのかわかったんだよ」
『え?』
「何で俺が他の女のは食わないで、お前が作ったのは食うと思う?」
『…十四郎が気を使ってくれてるんでしょ』
「ばか、ちげぇよ。
妙が作ったのが食いたいからに決まってんだろ」
『何言ってるのよ、らしくない』

クスクスと笑う声が聞こえて安心する。今だ、今なら言える。
ゆっくり息を吸って自分を落ち着かせた。

「あとさ、俺お前に言うことがあるんだけど」
『あ、待って、それは私が先に言うわ』
「は」
『昨日はごめんなさい』
「…あ、ああ、それか」
『え?』
「お前さ、昔から少しずれてるとこあるよな」
『十四郎に言われたくないわよ』

くそ、何か言うタイミング逃した!どうする俺、やめるか?
いや、男に二言はねぇ!

「俺が言いたいことは違う。よく聞けよ?」
『うん?』
「好きだ」
『へ──』
「あーっ、そんだけ!じゃあ、プレゼントありがとな!」

逃げるように自宅へ入る。やべえ、すっげぇ顔熱い。
つうか何も聞かずに帰って来ちまった、明日からどうすれば──

「ちょっと十四郎!勝手に逃げないでよ!」
「うおっ!?
何勝手に入ってきてんだよ!?」
「いつものことでしょ!
それより、私の返事もちゃんと聞きなさいよ」
「お、おう」
「…私も、す──」
「あ、待て!」

思わず妙の口を抑えて止める。待てよ、今のセリフの先、自惚れじゃねえよな?
妙が何するんだと言う目で見てくるから手を離した。

「今の返事、自惚れじゃねぇよな?」
「…まだ言い切ってないけどね」
「それなら、返事はまだいい」
「どうして?」
「──昔、言ってたろ、お前」
「私?何て?」
「もし彼氏ができたら、記念日はちゃんと祝いたいって。
今日返事聞いちまったら俺の誕生日と同じになっちまう」

俺は至極真面目に言ったのだが、妙は何故か吹き出して、大声で笑いだした。は、何で?俺は極力妙の願い通りにと思って…。

「ごめん、ごめん。
まさか十四郎がそんなこと気にしてくれるなんて思わなかったんだもの」 「…」
「それじゃあ、いつ言えばいいかしら?」
「夏、とか?」
「わかった、じゃあ7、8月頃に。
それまでが幼馴染みでいられる期間ね」
「肩書きが増えるだけでこれからもずっと幼馴染みだろ」
「何て肩書き?」

わかってる癖に言わせようとするから、俺も笑って思いっきり言ってやった。


幼馴染みな彼女


(もちろん未来の奥さんって肩書きもよね?)
(当然。最愛の幼馴染みですから)
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