×お妙

□そんな些細なプレゼント
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「trick and die.
お菓子はいいから死んで下せェ土方ァ」


朝っぱらからそんなことを言われつつ仕事に取りかかる。なるほど、今日はハロウィンとかいう、知名度はあるくせにあまり浸透しなかった行事の日だ。
外ではカボチャの飾りや変なコスプレをした呼び込みなどで溢れているが、本来のハロウィンを行っている者はいない。

そんななか、見覚えのある餓鬼を見つけた。隣を歩いていた総悟も見つけたらしい。


「げ、税金ドロボーアル」
「わ、神楽ちゃん煽りに行かないで!」
「んなでけぇ袋もって、餓鬼は餓鬼らしくお菓子貰って歩いてんのかィ?」
「ちげぇーヨ!
今日姉御の誕生日アル」
「万事屋でちょっとしたパーティーみたいにして祝おうと思って、
その買い出しです」


ピクリと耳が反応する。こいつの言う姉御、とはあの女のことを指すはずだ。
そうか、今日──。


「おい、総悟行くぞ」
「いつも近藤さんが迷惑かけてるお詫びにお祝いの品くらい用意した方がいいかもしれやせんね」
「んな必要ねーよ」


きっと総悟は何となく言っただけで深い意味などないのだろうが、その一言に同意するところだった。
渡す必要ない、むしろ渡したらおかしいだろ。ただの顔見知り程度、それも、恐らくは悪意を向けられているに違いないだろう俺に祝ってもらっても嬉しくもないだろうし。

いつもの通り総悟は途中でどこかへ消え、俺は近藤さんを探しにきたという名目であるところへ来ていた。別に屯所から居ないと連絡が着たわけでも、本人から何か言われたわけでもない。寧ろ、俺の上司は今頃この女の誕生日を祝うべく躍起になっているところだろう。もしかしたら、万事屋のパーティーに潜り込もうとしているのかもしれない。

それをわかった上で俺がここへ来た理由は、正直アホらしいかもしれない。


「邪魔するぞ」
「土方さん、こんにちは。
どうされました?」
「近藤さん来てねぇかと思って」
「ああ、またいつものゴリラ探しですか。
でも喜ばしいことに、今日は来ていませんよ」
「そうか」


たったそれだけの短い会話。これ以上話す必要はなく、話すこともない。そして上司の思い人なのだから、俺が入れ込むわけにはいかない。
別に叶えようなんて思ってもいない。ただ、あの人の思いが叶うまでは、俺の思いも捨てずにいようと思う。優しいあの人のことだから、きっと許してくれるだろう。

相手が何か言う前に別れの挨拶をし踵を返す。長居は駄目だ、あの人のためにも、俺のためにも。だが、数秒くらいは、いつもより長くても構わないだろう。


「ああ、そうだ」
「何ですか?」
「今日、誕生日なんだってな。
…おめでとう」


俺が誕生日を知っているのもおめでとうなんて言うのも予想外だったのだろう、大きな目をさらに大きくし驚いた顔をしている。
今日の目的は無事果たせた。アホらしいよな、こんなの。プレゼントなんか買わない、俺がこいつにあげたら変だろ。そもそも、きっと喜ばないだろうし。それでも、せめておめでとうくらいは、言わせてもらいたかったんだ。


「あっ、土方さん!
今日、何の日か知ってます?ハロウィンですよ!
お菓子の一つくらい下さらないの?」
「んなもん俺が持ってるわけねぇだろ」
「だって、誕生日祝ってくれるんでしょう?
私、甘いもの好きなんです」


お前がそう望むなら、別にいいよな?
そんなこと考える自分がおかしくて少し笑った。 


「今度な」
「今度、何です?」
「どっか連れてってやるよ」
「本当ですか?約束ですよ!」


こんなに嬉しそうに笑ってもらえるなら、
やっぱり祝ってよかったなんて、柄にもねぇな。

そしてその“今度”を楽しみにしている自分がいるのも、
やっぱり確かなことだった。


そんな些細なプレゼント
(もらったのは俺の方かもしれない)


「ほらみろゴリラ、あいつの嬉しそうな顔」
「うう…お妙さん…」
「僕もゴリラより断然土方さんの方がいいです」
「じゃあマヨと姉御が結婚してもいいアルナ」
「け、結婚!?
そんな、まだつき合ってもないしそもそも土方さんが姉上を好きかどうか…」
「こうやってわざわざ祝いに来たのがその証拠だろ。
ぱっつぁん、男なら潔く認めろ」
「あとはゴリラが姉御を諦めればマヨも心置きなくアタックできるアル。
さっさと諦めろヨ」
「じゃ、俺らは帰って準備するか。
誕生日パーチーするんだろ?」
「うん!
ダメガネ行くヨロシ!」


おわり
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