×お妙

□あなたが好き
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 私には今お付き合いしている人がいる。

「妙」

 この人、土方十四郎さんである。ずっと好きで、好きで好きで、数年の月日を経てようやく実ったのだ。私は今も昔も、この人が大好き。

「今日は何が食べたいですか?」
「そうだな…」

 こうして手を繋いで隣を歩けるのが、本当に幸せ。

「ただいま」
「姉上!お帰りなさい」
「おーお帰り」
「銀さん、来てたんですか」

 銀さんは私の父と親しくて、父が亡くなってからは私たちを気にかけてくれている。普段はダメダメな腐れ天パだけど、いざというときには頼りになるお兄ちゃんみたいな存在。
 土方さんと銀さんは犬猿の仲で、私が土方さんと付き合っているのが銀さんは気にくわないみたい。土方さんも、私が銀さんと仲良くするのをあまりよく思ってないみたい。案外焼き餅焼きの人だからたまに怒られるのだけど、土方さんは今まで何人もの女の人と関係を持ってきたのに対して私は土方さんだけ、ということを引き合いに出すと大人しくなってくれるから、結局私と銀さんの関係は昔と変わらずこんな感じ。

「アイツとおデートですか、いいねえセレブは」
「銀さんもちゃんと働いていい奥さん見つけて下さいね」
「うるせ…ん、妙」
「え?」

 銀さんが不意に顔を近づけてきて、額に手を当てられた。

「熱はねぇか」
「なに?」
「顔色悪いぞ、寝不足か?」

 今日の土方さんとの約束のために昨日遅くまで仕事してたから…土方さんにはバレなかったのに、やっぱり我が家──特に銀さんの前だと気が緩んじゃうわね。

「今日は早く寝るわ。ありがとう」
「無理すんなよ」

 ぽん、と大きな手が頭に乗せられる。ああ、やっぱり安心する、銀さんに頭をなでられると。


「すみません…ご迷惑お掛けして」
「いいんだよ、妙ちゃんはいつも誰より働いてくれてるんだから、ゆっくり休んで治しなさいね」
「本当に一人で帰れる?」
「大丈夫よ、おりょう。ありがとう」

 次の日、私は熱が出た。早退なんて…みんなに申し訳ない。本当は歩くのも少し辛いんだけど、そこまで迷惑を掛ける訳に行かないから。

「妙」
「銀さん!どうして…」
「昨日お前具合悪そうだったから、あの感じだと熱出すと思って。ジャンプ買うついでにきてやった」

 ほら、とヘルメットを投げられ、後ろに座るよう諭される。銀さんなら、銀さんになら、甘えてもいいでしょ。私はヘルメットを被って、遠慮なくスクーターの後ろに乗った。もう、私のこの癖本当に嫌、熱が出ると泣きそうになるの。

「ん、氷買ってくか。ちょっと待ってろよ」
「うん」

 銀さんがコンビニに入っていく。ずっとスクーターに跨がっているのも疲れるから、降りて少し段差になっているところに腰を下ろした。すると、大好きな声で呼ばれた。

「ひ、土方さん…!」
「どうしたんだ?こんな所で」
「お待たせ〜。おし、じゃ氷が溶けねぇうちに…」
「万事屋…?何でてめぇがここいる」
「そりゃこっちのセリフだ。おサボりですか、セレブくーん?」
「誰がお前じゃあるめぇしサボるかよ。仕事で近くまで来たんだよ!」
「あっそ。俺はコイツが具合悪そうだったから迎えに来たんだよ」

 銀さんがそう言うと土方さんが心配そうに私を見る。近づいてきて額に手を当てられた。同じ行動なのに、銀さんとは違ってドキドキして、よけいに熱くなる気がした。

「…俺が送ってく」
「え?で、でも土方さんお仕事中なんじゃ…」
「お前を送ってく時間くらいある。こんなときくらい自分の心配してろ」

 じんと目の奥が熱くなる。だめ、泣いちゃう。泣いたら面倒くさいと思われる…。私はぎゅっと服の裾を握って耐えた。

「いーよ、俺が送ってくから。どうせ帰り道だし。お前はさっさと仕事戻ったら?」
「あ?てめぇに指図されるいわれはねぇんだよ」
「あ、あの!私、銀さんに送ってもらいますから…だから、土方さんは気にせずお仕事に戻って下さい」

 嫌われたくなくて。邪魔だと思われたくなくて。私は必死に笑顔を作って言った。けど。

「…かよ」
「え」
「じゃ、戻るわ。お大事に」

 ピシャリと言い放たれた言葉。痛い。ああ…彼の機嫌を損ねてしまった。

「ひじっ」
「おーさっさと行けセレブ野郎。ほら行くぞ、妙」
「え、あ…」

 バンッと彼の車の扉を閉める音がして、直ぐに行ってしまった。結局私は何も言えず、銀さんのスクーターに乗って背中に捕まり、家まで送ってもらった。
 その日銀さんは新ちゃんが帰ってくるまで、ぶっきらぼうに看病してくれた。

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