×また子受け
□雨と、彼の人を
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「いっ!?っつぅ…」
頭を押さえ踞った
涙目のまま辺りを見渡すと、
もう暗くなっていた
「何だ、夢ッスか…」
ホッと胸を撫で下ろしたのと同時に、
まだ万斉が戻ってきて居ないことを知る
メールを確認しても、連絡はなかった
───…時刻はもう21時を回った
「何だ、まだ止んでなかったんスか」
シンと静まった部屋は余計に不安で、
しかし雨の音も不安を煽る一方で鬱陶しい
こんなときには大体万斉に何か弾いてもらうのだが、
今はその万斉が居ないのだ
かといって他の者と話す気にもならず、
イヤホンで音を流しても万斉を思い出させるだけなので
結局また子は壁に凭れかかって雨音を聞く他なかった
「くそっ、万斉め何が8日には帰ってくるッスか、嘘吐き
これでプレゼントもなかったらとっちめてやる」
また子は何となしに窓を開いた
雨音は一層大きく聞こえる
手を伸ばし、雨に触れてみる
冷たい
「何も見えない…」
雨は聴覚ばかりか視覚にまでも影響し、
不安も焦りも淋しさも、
全てを掻き立てる
掴もうとしても、掴めなくて
それは儚く消える様を連想させた
まるで、雨が大切な彼の人を攫ってしまうような
─ゾクぅッ
「怪我でもしてきたら承知しないッス」
勢いよく窓を閉めて手を振り水を飛ばす
ドカッと乱暴に座って一人
「でもまあ、手当てはしてやらないでもないッスけど
もしこの雨でびちょびちょだったらタオルくらい投げてやるッス
風邪引かれても迷惑だから着替えも出してやろうかな
もし風邪引いて帰ってきたらお粥でも作ってやるッスかね
不味いとかぬかしたらぶん殴ってやるっ
あんまり長引いても嫌だから看病はしてやってもいいッスよ
男所帯ッスから、仕方ないッスね
もし寂しかったって言うんなら傍に居てやらないこともないッスだからっ、
早く帰ってきてよっ…!」
だんっ、と畳に拳をぶつける
すると、何か温かいものがまた子の背中を包んだ
「ただいま」
「万斉っ!」
顔だけ振り向きまた子は嬉しそうに呼んだ
しかし、直ぐ真っ赤になり顔をそむける
「お、遅いッス!!
もう10時ッスよ!!8日の!!」
「はあ、任務で2、3日遅れることはよくあること
それ故また子殿なら大丈夫かと」
「っそれは…
あーっ、もう、煩いッス!!//」
「すまぬ、
拙者が悪かったでござる
遅れてすまぬな、また子」
「っ//」
万斉は楽しそうに笑って謝った
また子は顔を真っ赤にして口を尖らし、
ばつが悪そうに呟く
「プレゼント」
「ん?」
「プレゼント、ないッスか
待たせたくせに」
万斉は、あー…と口を淀ませ、
短く謝り、言葉を続けた
「何せ急いで終わらせて帰ってきたもんだから──…その」
「ないッスか」
「すまない
どうでござるか、
今年のプレゼントは拙者、ということで」
怒って抗議するだろうと予想し、
万斉は冗談のつもりで、
しかし真顔で言った
ところが、予想は大きく外れ
「…いいッスよ」
「へ」
「万斉が無事に帰って来てくれただけで充分ッス」
そしてまた子はくるりと振り返り、
幸せな笑顔で万斉に抱き付いた
「おかえりっ!」
雨が彼の人を連れてきた
「大好きッス、万斉っ!!」
「…拙者の誕生日みたいだな」
万斉の顔は珍しく赤かったとか何とか
(タイミングを逃したな
さて、いつプレゼントを渡そうか)
END