×また子受け

□下野草
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人斬りと恐れられる謎の剣豪

爆発的人気音楽プロデューサー


底知れる闇に、血塗られた手は数多の命を奪う、
身を忍ばせる

華やかな世界に、美しい音を奏でる手は人々の心を掴む歌を生み出し、
その名を轟かせる

一見正反対のようだが、しかし一人の人間のことを言っている


つんぽ♂こと、河上万斉だ


「あ、また子殿、ただいまでござる」
「お帰りなさいッス、万斉先輩
表の仕事ッスか?」
「ああ、来月お通殿の新曲が発売されるのでござるよ」
「お疲れさまッス」


じゃ、と言って歩き出すと後ろから抱き締められる

あ、と思った
また、違う香水の匂い

首筋に唇が触れる
そのまま耳元まで上がってきて、また子、と呼ばれた


「何スか」
「せっかく久しぶりに帰ってきたのに冷たいでござるなあ」
「毎度毎度違う香水の匂いつけて来る人に言われたくないッス」


そういう世界だってことくらい、わかってる
万斉だって、それはモテるだろう
カリスマで、若くて、見た目だってサングラスで隠れてるがイケメンの部類、
オマケに女の扱いには慣れてる

表の仕事をしている万斉に会えば、
いつも違う女と居る

きっと、自分の遊びに過ぎないのだろう


「どうせ色んな女と寝てきたんでしょう?
今日くらい一人で寝たらどうッスか、先輩」
「怒ってる?それとも嫉妬でござるか?」


クス、と笑われては言い返す言葉もなく
万斉はいつだって余裕で、私は丸め込まれてしまう


「それに、また子とて同じであろう
晋助とは何か進展が?」
「…煩いッス」


そう、私だって、遊び
始まりは、何だったか

酒の勢いだったかもしれないし、私が泣いてたのかもしれないし、偶然だったかもしれない

いつからか私達はこういう関係になった


「愛してる、また子」
「…私もッスよ、先輩」


淡々と行われる行為、虚妄の言葉、見せ掛けの愛

お互いの気の向くままに、利用する関係

だったはずなのに


「愛してるッス、万斉」


いつの間にかその言葉は嘘ではなくて


だから違う香水の匂いがしても、髪が付いてても、遊ばれても

離れることなんて、もうできない

ただ流れるように行われるこの快楽の中に、

微かに燃える、真実を知ってしまったから


end
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