×また子受け

□ケイトウ
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「大人になったら結婚しよう」


小さい子達が交わす、可愛い約束

そんな微笑ましい思い出に縁の無いように見える私も、
その約束を交わしたことがある

その相手は幼なじみで、現クラスメートの沖田総悟である

総悟とは保育所からの仲で、
殆ど毎日一緒に過ごしていた

そして小学校の入学式の前日、確かに約束したのである
「大人になったら結婚しよう」と


しかし小学校へ上がり数年もすると、
互いに仲の良い人は増える

少しずつ一緒に居る時間は減り、
そしてある日から総悟が私のことをまた子ではなく来島と呼ぶようになった

だから私も、総悟ではなく沖田と呼ぶようになった

そして、総悟はあまり私に関わらなくなった(もともと優しかったわけではないけど)


まるで、あの約束を忘れてしまったよう

そんな約束、覚えて居たってどうしようもない
誰もがそう思うだろう

実際、その約束を笑い話にして違う人と結婚するなんて、ありふれた話だ

それでも私が今でも時々これを思い出すのは、
やはり総悟のことが好きだからなのだろうか


実を言うと私は、昔から総悟が好きだった

総悟はもちろん、誰も知りはしないのだが


「暑いッス…」


夏休みもそろそろ終わろうかという時期だが、それでも暑さはまだ収まることを知らない

珍しく早起きしたものの、暑くて何もする気になれない

その上冷蔵庫に飲み物がなかったので、
近くのコンビニに買いに行った、今はその帰りである


「あっ、そ──、沖田!」


反対方向から歩いてくる総悟を見つけ手を振る
制服で居るところを見ると、部活だろうか


「久しぶりッスねー!」
「夏休みの間だけだろィ」
「そうッスけど、やっぱり沖田に会わないと何か違和感があるッス」
「そうかねェ」
「そうッスよ!
今日も部活?」
「いや、今中止になったってメール着た
ったくおせぇんだよ土方のヤロー」
「まあ、毎日あったもんね」


ってことは、今日暇なのかな?

正直、焦ってる
総悟は成長する度どんどんモテていく

それにつれてどんどん話せなくなっていく
もう高3、総悟とはきっと別々の道を歩む

だから、その前に
もし駄目でも、せめて想いは伝えたい


「お前は?」
「へ?」
「今日、予定あるのかって聞いてんでィ」
「ないッスけど」
「じゃあどっか行くか」
「へ!?」


え、嘘デート!?
これはまさかのいきなり突然偶然にもチャンス到来!?


「暇つぶしでィ
…嫌なら別にいいけど」
「行く!行くッス!
着替えるから、ちょっと待ってて!」
「別にその格好でもいい…」
「駄目っ、それは嫌ッス!
待ってて!急ぐから!」
「じゃあ俺も着替えて来るから、
待ってろィ」
「わかった!」


せっかく総悟と2人で出かけるんだもん、
おしゃれしてメイクして、可愛くしたいよ


「何着よう…」


ドキドキする
何年振りだろう、2人で出かけるのなんて


「総悟」


ぎゅっと服を抱きしめる
好き、総悟

顔がにやける、恥ずかしいな
でも抑えられない、好き、好き、大好き


「メイクよし、髪よし、胸よし、スカートひだよし、カーデよし、
バッグよし、ケータイ充電よし、財布よし…」


ピンクのストラップレスワンピに黒いレースの七分袖カーデ
髪はいつものスタイルをゆるく巻いて
淡い黄色の持ち手と装飾のバッグ、ネックレスと腕時計を付けて


「さて、靴…」


コーデするときに靴も考えるけど、
それが2つ、悩んでいた

黒いパンプスにしようか、黄色のハイヒールにしようか

黒いパンプスにしたらちょっと辛目過ぎるし暗い気もするけど、
アクセも黄色っぽいのを選んだからヒールまで黄色はどうなんだろう

他のものはいまいちピンとこない


「…よし、黄色!」


理由は、総悟を連想したから
幼い頃、総悟のお姉さんに言われたことがある

「また子ちゃんとそーちゃんは黄色が似合うわね」って
今は、私のイメージカラーは何故か赤なのだけど

私は、かつて総悟のお姉さんが言ってくれた黄色が気に入っている

玄関の戸を開けると、もう着替え終えて待っていたらしい総悟が音楽を聞いている(ひょっとしたら落語かも)


「沖田、お待たせッス!」


総悟の私服もそういえば久しぶりに見る
黒の半袖パーカーとサルエルとハット、白基調のTシャツ

シンプルな服装を好む総悟らしい服(帽子を被るのは珍しい気がする)

黄色いイヤホンを外して私を見る
ドキッと思わず少し仰け反る


「…」
「…」


え、何スかこの沈黙
まさか似合ってない!?

不安になって下を見る
あ、総悟のスニーカー、黄色い


「やっぱり黄色だな、お前」
「やっぱり黄色似合うッスね」


あ、ほぼ同時

というか、“やっぱり”って


「俺らの色だからねィ」
「総悟も覚えてたんスね!
あ…」


総悟って言っちゃった

でも気にしてないように総悟は歩き出す


「何してんでィ、行くぞ、また子」
「!うんっ、うん!!」


小走りで近づくとぐきっとバランスを崩す
思わず総悟にしがみつくと笑われた


「しっかりよろよ、奥さん」
「はい!?」
「俺の嫁になるんだろィ?」
「へ…」


え、うそ、うそうそうそ!?
総悟も覚えてた!
しかも、今の…え!?


「返事は?」
「っ、はいっ!!」


何年かぶりに繋いだ手
何年かぶりの約束

変わったようで、何も変わってないね

結局今も昔もこれからも私は総悟が好きで、
未来の奥さんで


「あのね、総悟」
「ん?」
「な、何でもないッス!」


そして結局私は、
まだ総悟に好きって言えない

言えるのはいつになるのかな?


「また子」
「なんスか?」


そして、ドキドキの初デートはまだ始まったばかり


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