×また子受け
□告白予行練習
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「万斉、あのねっ…」
「ん、どうしたでござるか?」
いつものように二人で帰ろうとしている玄関で、
私は立ち止まった。
万斉が顔だけ振り向き、
私が何も言わないのを見て体ごと振り向く。
ヤバい、どうしよう、心臓がバクバクしてるッス〜〜っ!
「また子?」
「そ、の、…」
私はぎゅっと拳を握り、叫ぶように言う。
「いきなりでごめんね、
ずっと前から好きでしたっ…!」
ドクン、ドクン、ドクン
ドキドキ煩い胸の音、君に聞こえてないかな…?
告 白 予 行 練 習
「またk」
「な、な〜んてねっ」
「は」
「告白予行練習ッス!
本気と思ったッスか?なんてねっ」
顔を見られると見破られそうだから万斉を置いて歩く。
後ろから深い溜め息が聞こえる。
うわ、怒らせちゃったかな…?
「まったく、また子は…。
告白予行練習?
何でござるか、それ」
「へへ、実は私、好きな人に明日告白しようと思って。
でも緊張するから、その練習ッス!」
「ほう、それはそれは。
というか、また子好きな人居たんでござるか」
「じ、実はずっと居たんスよ」
「ふうん」
万斉の探るような目が痛いっス…!
我ながら苦しい嘘だったかな。
「で、どうだったッスか?
かわいい?ドキッとした?」
「どうも何も…」
呆れたようなどうでもいいような…。
というか、無表情?
そんな顔で見ないでよっ!!
せめてちょっとくらい照れてくれてもいいじゃないッスか!!
「まず、ちゃんと相手の目を見て言った方がいいでござるよ」
「む、無理ッス!
緊張でそれどころじゃ…」
「でも、目を見た方がかわいいでごさるよ」
「っ…」
は、反則ッス!
何その笑顔っ!!
普段そんな優しげな笑顔なんて見せないじゃないッスか万斉の馬鹿ー!!
「ただでさえまた子は可愛げも色気もないんだから、
せめて上目遣いくらいしないと…」
「だあっー!!失礼ッスね!!
煩いッス!」
万斉が可笑しそうに笑う。
もう、やっぱり万斉にとって私はただの幼なじみッスか…。
確かに私はあんまりモテないけどっ!
「そんなだから今まで一回も彼氏ができないんでござるよ、また子は」
「う、煩いッス!!
仕方ないじゃないッスか、これが初恋なんだから!
私はその辺のビッチとは違うんスよ」
「む、初恋は小学校の時の花屋の…」
「あ、あれは違うッス!」
確かにあの人も格好良かったけど!
私の初恋はお前だっつの気づけ馬鹿!!
「そ、そういう万斉だって彼女居たことないじゃないッスか」
「興味ないからな。
なに、心配しなくても、寄ってくる輩は多いでござる」
「ムカつく言い方ッスね」
確かに、万斉はモテる。
こんなサングラスかけてヘッドホン付けたただの音楽オタクなのに。
「じゃあもし私がフられたら付き合ってよ」
ん?あれ、
私勢いに任せてとんでもないこと…。
「まったく、また子は」
「じ、冗談ッスよ──」
「本気になるでござるよ?」
「な…」
ほら、また。
急にそんな真面目な顔。
本気になるよ、なんて嘘つかないで、やめてよばか。
期待、しちゃうよ?
「そうだ!
今日はちょっと寄り道して帰ろうよ?」
「これまた急な。
いきなりどうしたでござるか?」
「別に、何でもないッス!」
もし私がフられたら、
今のまま居られないかもしれない。
こんな風に笑って2人で並んで歩いて寄り道して、
そんな、私の日常であり、幸せ。
明日、それが壊れちゃうかもしれないから、
だから今日は、いつもみたいに。
「で、どこ行くでござるか?」
「そうッスねー…。
あ、こないだできたクレープ屋!
でもパンケーキもいいなあ」
「フッ、また子は花より団子でござるな」
「煩いッ!」
それでも誰かに取られるのは嫌だから──。
明日には伝えるね?私の好きな人。
「万斉、応援してね、約束ッス」
「…」
「うわっ、ちょ、何するッスかあ!?」
「一体拙者に何をしろと。
前々から相談を受けていたならまだしも、
明日告白するのに、しかも誰かも知らず、
それは協力のしようもないでござるよ」
「それはそうッスけどー!
もうっ、いいッス馬鹿っ!!」
ねぇ、万斉。
この音聞こえてないよね?
いつも素直になれなくてこんなことばっかり言っちゃうけど、
好きだよ、って、ちゃんと伝えるから。
───────────────…
「はあ〜…」
湯船に入ると自然と声が漏れる。
別に死んでも落ち込んでもいないけど、生き返るッス!
「い、いよいよ決行しちゃったけど…。
万斉なんて言うかな?」
もし、フられたら、
今までの関係が壊れちゃったら、
そう思うと怖くてたまらない。
失いたくない、大切な幼なじみ。
でも、それでもし万斉が他の子と付き合ってしまったら?
きっと、私は祝ってあげられないし、
悔しくて悔しくて、考えただけで涙がでる。
「うぅう〜〜っ」
ぶくぶく、お湯に沈む、心も。
でも、すごくドキドキしてる。
「『私の我が儘を明日だけ聞いてくれる?』」
メールを打ちながら昔を思い出す。
昔、我が儘と言ったらとても子供っぽいものだった。
あの風船がほしい、あのケーキが食べたい、
ジェットコースターに乗りたい、ヘアゴムが欲しい、曲弾いて…。
でもね、
今は少し、ほんの少しだけど、大人になったこの心の我が儘を、
昔みたいに笑顔で、聞いてくれるかな…?
『明日もでござるか?
まあ、構わないが。
まったく、あんまり言うと本当に本気になるでござるよ』
ああ、やっぱり、何も変わらないね、私たち。
それが嬉しくもあるけど、今は変わりたいんだ。
「『本気になってよ、練習なしで』」
ねえ、万斉?
鋭いアンタなら、気づくでしょ?
「予行練習」なんて、
嘘つき心を見破ってよ。
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