×また子受け

□告白予行練習 another story
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─────────────────…


『五位は牡牛座のあなた。
今日は恋愛運が絶好調!好きな人から告白されるかも。』


毎朝テレビでかかっている星座占いの結果は良好。
いつもは気にしない恋愛運勢に聴覚を集中させる。

告白されるかも、でござるか。
されるよ、練習でござるけど。

人として、幼馴染みとしては最低だが、心から当たれ!なんて思っている。

『おめでとうございます!
今日の一位は山羊座のあなた。
特に恋愛運勢が絶好調。告白するなら今日が吉。
ラッキーカラーは赤です。』


赤、か。何ともまた子らしい色でござる。
きっと今頃家中の赤いものを集めているんでござろうな。

最低なはずだ、拙者としては。
でも、この結果にも当たれ!なんて思ってる。

どっちかが当たれば、どっちかがはずれるのに。
でも、また子が悲しむくらいなら、なんて思ってしまうのも事実である。


「そろそろ行くか」


また子の家まで迎えに行って一緒に登校するのが毎日の日課。
普通マンガやドラマなら女の方が起こしに来るだろうが、
拙者達は逆。 

毎朝迎えに行ってまだ起きてなかったら起こして、
たまに一緒に遅刻することもあった。


「今日は自転車にするか」


春夏は自転車で登校することも多いが、基本的には徒歩。
だが、今日は少し意地悪をしてやる。

きっと、髪もメイクも制服もバッチリ決めて来るであろうから、
思いっきりこいでぐちゃぐちゃにしてやる。

一緒に登校もできなくなるだろうから、
今日くらいくっついてもらってもバチはあたらないだろう。


「行ってきます!
ぬぉわ!?」
「…かわいい気のない悲鳴でござるな」


また子が扉を開けた勢いのまま胸に衝突してくる。
相変わらずそそっかしいでござるな、女子力の欠片もない…。

もしかして拙者が迎えに来るの忘れてたのか?

恐らく朝の占いが当たっていないことに対する不満を何とか落ち着かせたのだろう、
咳払いをして髪をとかしている。


「お、おはようッス」
「おはよう。
今日はずいぶん気合いが入ってるでござるな」
「き、今日くらいいいじゃないッスか、女の子にならせてくれても。
わかってるッスよ、どうせ似合わないとか──」
「似合ってる。かわいいでござるよ、また子」
「へ…」
「まあ、メイクなどしなくてもすっぴんで充分かわいいがな」


本音だ。
また子は子供っぽいくせに妙にませている部分があった。

オシャレもメイクも、人一倍はやく覚えた。
メイクを頑張る努力はかわいいし、もちろんメイク後かわいいが、
拙者はすっぴんが好きだ。

どうせ女は大人になったらすっぴんなしで出かけなくなるのだから、十代の間くらいすっぴんで居たらどうでござろう。口にはしないけど。


「…好きッス」
「はいはい、どうぞたくさん練習してくれでござる」


もうここまで来たら応援するしかない。
悔しいがこんなにかわいい表情のまた子は見たことがない。

誰とも知らぬどこかの誰かに嫉妬しているような器の小さい男など、
また子には合わないでござるな。


「ぬぉわ!?」
「だから、もう少しかわいい声出せないのでござるかお主は」
「ちょ、万斉!スピード速いッス!!」
「まだまだ飛ばすでござるよ」
「髪乱れるッス!何で今日に限って自転車なの!?」
「別にー」
「落ちるー!」


楽しい、けど、苦しいでござるな。

拙者達は幼馴染みのまま、これからも変わることはないんだろう、また子。


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「…帰るか」


放課後。告白するらしい時間。

このままだと終わるまで待ってて!なんて言われかねないから早々に立ち上がる。

すると、慌てて追いかけてくる足音が聞こえる。

昔からまた子は拙者がどこかへ行くと慌てて付いてきて、
男子トイレにまで付いてこられたときは困ったでござるなあ。

そんなまた子も、これからは違う男に付いて歩くのだ。
拙者がどこへ行こうが、振り返っても、
そこにまた子の姿はないんだ。


「万斉!」
「また子、告白はどうしたでござるか」
「その前に、もう一回練習させて!」


笑顔を作って了承する。
本当は告白なんかさせたくない。するな、拙者以外の男に。

これが練習でも嘘でもなければいいのに。
これが最後の練習だから、拙者も嘘つき言葉を吐く。


「好き、だよ」
「堅いでござる」
「好き」
「簡潔すぎ。
もっと明るく爽やかな方がいいでござるよ」
「好きなんだYO!家事できないけど」
「ラッパーかお主は。そして欠点は言わない、
ふざけない。」
「…好きです」
「もっと笑顔で」
「好きッス!」
「…うん、やっぱりまた子らしいのが一番いい」
「ありがとうッス」
「じゃ、頑張るでござるよ、応援してるから。
また明日でござる、また子」


ぽん、と頭を撫でて笑顔のまま歩き出す。
その後ろを、また子はもう付いてこないんでござるな。

拙者は“応援してるから”って立ち去り──


「待って!」


切羽詰まったような、必死な声。
足を止める。振り向く。また子を見つめた。

誰もいない渡り廊下、自分と彼女の吐息だけが聞こえる。


「嘘つきでごめんね、
───ずっと前から好きでした」


──嗚呼、本当に、お主は面倒くさいでござるなあ。
声が震えて居たでござるな、“大好き”を拙者に伝えたくて。


「私が好きなのは、今も昔も、ずっと万斉だけッス!
だから、だから…私とつき合ってくださいっ」


これ以上驚かせないでくれ。
煩い鼓動を聞きながら、何とか落ち着かせる。


「まったく、本当にまた子は昔っから…
これ以上好きにさせないでくれ」
「へ?」


余裕なふりをして笑顔で応えた。


「“こちらこそ”って。
え、えええ!?ほ、本当に!?本当の本当?万斉!」
「こんなときに嘘など吐かぬ。
さ、帰るでござるよ、また子」
「え、ちょ、待って万斉っ!!」


かわいい、これが現実なんでござるな。
また子も拙者のこと──。

いつものように自転車で2人乗り。
今までなら回されることのなかった細い腕が遠慮がちに腰に触れてきた。


ドキドキ煩い胸の音、君に聞こえてないかな?
ドキドキ君を想う胸の音、君に聞こえてほしいんだ。

だから、今日は。

抱きついてきたまた子に誤魔化すこともなくそのまま聞かせる。

届くか?拙者の胸の音、
伝わるよ、君の胸の音。

幸せだ、また子と一緒に、これからも。


「ねぇ、万斉」






 〜 a n o t h e r  s t o r y 〜



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