×また子受け

□プライド
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そりゃあ私だってこれでも一応女だから、

お姫様扱いしてもらってかっこよくエスコートされたり、 
頼りがいのある人に引っ張っていってもらったりしたい、けど

こんなでも一応年上としてのプライドって物もありまして。





「また子殿、おはようでござる」
「万斉。おはよう」

万斉は近所に住む私の幼馴染み。とは言っても、私の方が五つも上だから、友達というよりは弟みたいな存在だ……った。数年前までは。

遡ること五年。半年間付き合った彼氏の浮気が発覚、しかも私じゃなく浮気相手を選び、私は高校最後のクリスマスイブを雪が降る公園で一人泣きながら過ごす羽目になった。
二人で食べるはずだったホールケーキを付いていたプラスチックのフォークでバクバクと口に突っ込んでメイクも髪もぐちゃぐちゃな私に傘を差してくれた人が居た。振り返ると見慣れた幼馴染みで、万斉は隣にしゃがみ込み、もう片方のフォークを取り出し無言でケーキを食べた。

昔から大人びていてしっかり者の万斉。だけど年下の前で大泣きしてしまったことが情けなかった。

「…ごめ」
「好きだ」
「え?」
「返事はわかってる。今はそれでいい。いつか、好きになってもらうからな」

それから万斉は私を“女の子扱い”してくる。荷物持ってくれたり、夜は送ってくれたり、一々行動がイケメンだ。だから成長するにつれて、生意気にも万斉はモテた。それでも気持ちは変わらずにいてくれているらしい。

一方私はというと、何人かと付き合ったり別れたりして、相変わらずの熱しやすく振られやすさったらない。この年で最長が半年というのには流石に呆れるし、自分自身にがっかりする。

「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいでござる」

正月休みが終わりもう数日経つ。だるさは抜けきらず、私は欠伸をした。


「来島さん、これ明日までにお願いね」
「はい」
「来島、コーヒーくれ」
「はい、ただいま!」

女で、しかも下っ端だからって私はメイドじゃないんスよ!!なんて、すっかり馴れてしまったことでさえ今日は煩わしく感じる。しかもこの量明日までって…また残業だな。

「アンタ今日機嫌いいッスね」
「あ、わかるー?実は今日、高級ホテルで彼とディナーなの!」
「へえ、流石相手は弁護士なだけあるッスね」
「えへへ、実は…プロポーズ、されちゃった!」
「え!?」

そう言って見せてきた左手には指輪が光る。数ヶ月後には寿退社するという。感情の籠もらないおめでとうを言っても彼女はありがとうと笑って、お先にと軽い足取りで出ていった。

「…定時上がりなんて、ずるいッス」
「来島!!」
「は、はい!」
「こないだの資料、ミスばかりじゃないか!」
「すみません…!」
「いいか、今日中に直せよ!」
「はい」

必死にキーボードを叩き画面と向き合う。無心になって、周りが次々と帰るのに返事をして、一枚めくって次。一枚めくって次。

やっとの思いで仕上げて伸びをする。時計を見ると22時23分。すっかり人気のなくなった社内を後にする。もう外は暗い。
スマホのディスプレイ浮かび上がった日付を見て、私はまた溜め息をついた。
私、何やってるんだろう。

仕事では雑用を押しつけられ、ミスして怒られ、そして残業。同期の子は寿退社するというのに、私は…。
喉の奥がぎゅっと苦しくなって、頬を叩いて外に出た。

「また子殿」
「!万斉…!」
「仕事、お疲れ様でござる」

そう言って投げられたヘルメットを受け取ると、万斉もヘルメットを被った。サングラスをしていないのを見るのは幼馴染みの私でも馴れなくて、何となくドキッとした。

「腹は減っているでござるか?」
「…ぺこぺこッス」
「それはよかった。さあ、行くでござるよ」
「どこに?」
「もちろん、姫君の誕生日を祝いに、でござるよ」

姫君、なんて、馬鹿ッスか。言っても軽く笑うだけで、その余裕がなんだか悔しかったら。思いっきり腰に抱きついて背中にぴったりとくっついたら、大好きだと、思った。

「泣き止んだ?」
「なっ、泣いてないッスよ!!」
「はいはい」
「子供のくせに生意気!」
「今更強がらなくても」
「私だって一応年上としてのプライドってものがあるッス」
「だったら拙者だって男としてのプライドがある」
「ま、まだ高校生…」

キッとバイクを止めヘルメットを脱ぐ。差し出された手を取って私も降りると引き寄せられ目が合う。

「つんぽ♂の名が世に知れ渡ったらお主も寿退社でござる」
「へ?」
「今度はそう待たせない」

そして唇が熱を持ったとき、プライドなんてものはなくなった。

おわり

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