他作品

□言いそこねた言葉
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『…田中』



「…何だ」



『………』



「………」



『………あつい』



「………安心しとけ、俺もだ」



体育館のステージに座り込み、がらんとした体育館内を見ている私達。

普段、授業が終わったらすぐ体育館に来て、練習を始める田中が。バテている。

珍しいこともあるものだ。

……だけど、この気温ならそれも納得できる。

30度後半なんて、数年前までは考えられなかった。

地球温暖化なんて…なんてハタ迷惑な現象を起こしてくれたんだ人間め。



『なんて、見えないものに怒ってもなぁ』



「あ?」



『何でもない』



悲しい独り言を田中に理解されなくてよかった。

恥ずかしすぎる。

というか暑すぎて頭おかしくなってるのかもしれない。



『てか、誰も来ないね』



「そりゃそうだろ」



『え?』



「…大地さんから連絡こなかったか?」



『いや知らない』



そう答えると、田中は一瞬呆れた顔をする。

そして次の瞬間、衝撃的な事実を言い放った。



「今日、部活ねぇぞ」



『……は?』



……どういうことなの。

あの頭のてっぺんから足の先までバレーでできているあの人達が…一日部活しないって…いやいや。



『冗談も程々にしといて』



「いやマジなんだって。わざわざあの人教室まで来たからな」



『じゃあなんで私には連絡……ていうか、じゃあなんで田中がここに居んのよ』



「ぐ…」



まさか、部活ないって連絡来たけど自分だけは練習して他の人にドヤ顔しようと…。

…なんてことはないよな。うん。

…ない、よな?



「おい今失礼なこと考えてんだろ」



『キノセイデゴザイマス』



「……まぁいい。気にしねぇことにする」



『そうしといて』



その言葉を最後に、沈黙。

…暑すぎる。本気で暑い。

坂ノ下商店にでも行って涼んでこようか…と思ったけど、烏養さんに怒られるな、多分。

…部活ないなら、帰るか。

そう思って立ち上がると、田中から声が掛かった。



「あ?どこ行くんだ」



『部活ないんなら帰ろうかと』



「あー…そうだな、おう、そうだな」



『なんなの歯切れ悪い』



何か用事でもあるのだろうか。

一人で百面相している田中を、怪訝な顔で見る。

…そんな状態が一分。二分。

何も言わないんなら私から何か言おうとすると、田中も同時に口を開く。



「あ――…「――ぉい日向テメェ抜け駆けすんじゃねえ!」



「うるさい影山こそ先に行こうとしてただろ!!」



…と直後、体育館の入り口の方から声がする。

あの騒がしコンビが来たみたいだ。

…部活、ないのに。



『おいこらそこー、喧嘩すんなー』



軽く注意をするが、聞く耳持たず。

まあいつものことだから別にいいんだけど。



『…あ、田中、今何か言い掛けてなかった?』



「…………なんでもねぇ」



ふい、とそっぽを向かれてしまう。

…何なんだほんとに。



言いそこねた言葉




((あ、スガさん))

(げっ、見つかった)

((何ですかその反応))






 

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