【Not Joke】

□Public Enemy
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腹に剣が刺さっても、
頭や心臓を撃ち抜かれても、
死ぬようなことはなかった。

そんな自分の体質を知ったのは、皮肉なことに、母が死んだ直後だった。

母はそのことを知っていたんだろうか。

母は死なない息子を庇って死んだ。

もしかしたら、死なずに済んだかもしれないのに、それでも死んだ。

その時と似ている。

乾いた喪失感と刹那的な孤独。

この血がこんなにも憎くなるのは、いつぶりだろうか。


バケモノと聞こえた。

悪魔、去れ、と叫ぶ声がした。

遠くから急ぐ足音と、敵意に包まれた空気。

目の前に転がる異形物の死骸より、銃一発で死なない余所者の方が気になるようだった。


そうだった。

思い出す。


自分も異形物に他ならない。


大衆に交われない存在は、いつだって、煙たがれるか、虐げられるかだ。


…もうそれでいい。

それで構わない。

自分は“世界”の“敵”だ。

今更それを否定するのは、もう疲れた。

人と違いすぎることを指摘されるのも、
それを許されようとするのも、もうどうだっていい。


別の場所から悲鳴が上がった。

裂けていく人垣の中を堂々と歩いてそちらへ向かう。


どちらの“世界”の存在でもある自分に、味方なんて呼べるものはないのかもしれない。


だからどちらの敵でもあった。


でも母が、父が、愛した世界だから…。


撃ち込まれる銃弾。

慣れた痛みが胸を貫き、熱を帯びた赤が溢れだした。


影の中の自分が言う。


今、相対するべき敵は何だ?

今ここにいるのは、人間が“報酬”という言葉を知っているからだろう?


底意地の悪い声。


しかしそれは紛れもなく自分の声で。


確かに自分は人間で、
確かに自分は悪魔だった。


銃口を差し向けて空を撃つ。

怯えた目を睨んで立ち去った。



勘違いするな。

俺はお前たちの味方じゃない。






――――――――――――――

初シリアスです。
ナンバリングに従って初代から始めてみました。
言うまでもなく、タイトルは公式の方から失敬したのですが…
Public Enemyは直訳すると“公共の敵”となりますが、そんな政治的意味は込められてはいないと思うので“大衆の敵”とか“世界の敵”みたいなイメージで捉えて下さい。
何だか性格暗い感じがしますが、まぁシリアスなので。
自分が異端者であることに、諦めがついているようで、実は深く傷付いている初代。
なんやかんやいっても、彼も若いですからね。
考えないように、依頼と敵討ちのことに没頭しようとしてるのですが…、そりゃムカッときますよ。いくら初代でも。
…と、解説の方が長くなってしまいそうなので、この辺りで止めときます。



2013/5/3


 

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