【Not Joke】

□Fire Far Away
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「何で事務所の名前かえたんだ?」


「さあな。なんとなく。」


「戻した方がいいって、絶対」


「俺もそう思ってた」


そんなことを駄弁りながら歩いていると、昨日来た場所にたどり着いた。

漆黒の扉が、何もない宙に浮いている。

歩み寄って間近で見上げると、得体のしれない圧を感じる。

扉そのものから、異界の異物であるというように、邪悪な気配が漂っていた。

「どうだ?動く気配は?」

ネロは首を傾げながら

「さあね、あんたはどう思う」

「どうって…」

どう見ても…。

返そうとしたところで、嫌な気配を感じた。

以前にも何度か感じたことのある、陰鬱とした、内臓を燻すような、吐き気のする空気。

一方、ネロは下がれと言われるまでもなかった。

右腕が強く光り、危機を察知する。

穏やかな陽光をそそいでいた空が、たちまち暗雲に覆われていく。

扉の方へ視線を戻すと、明かな動きを見せた。

扉を両断する切り込みが、鈍い音を立てて顕になった。

だが、そう思ったのは、一瞬のことで。

まるで、扉をこじ開けるかのように、巨大な手が出現する。

「な…」

強い執念に突き動かされるように、飛び出した腕がのたうち回り、扉の片側を破壊してしまう。

ぽっかりと開いた虚空から、体を引き摺りだすようにして、悪魔は半身を覗かせる。

❲グオオオオオ❳

瓦礫を寄せ集めたかのような、醜悪な巨顔に、ネロは愕然としていた。

「なん、で…?こいつは、俺が、倒したはずなのに…」

対し、ダンテは冷静なものだった。

「また、どっかの誰かが、同じ次元から、引っ張り出してきたんだろう。
良かったな。上手くすれば帰れるぞ」

「言ってる場合じゃねえよ…」

ネロは、青い顔でレッドクイーンを抜く。

この悪魔の程度は、分かりきったことだった。

以前倒すことができたのは、ダンテが既に大幅に奴の生命力を削いでいたからだ。

ネロ一人に太刀打ちできる筈のない相手ではあったが、引き下がるわけにはいかなかった。

傍らで、若いダンテも、苦い表情で応える。

「…だな。悪いがネロ、帰る算段は、とりあえずこいつ片付けてからだ」

「わかってるよ。いくらなんでも」

スロットルを搾って、女王のご機嫌をとる。

ドルルルル、と、エンジンを蒸かすような、重低音が心臓を叩く。

にらみ合いは、しばらくも続かなかった。

仕掛けたのは悪魔の方で、迸る光線から身をかっし、反撃に、イクシード全開の一撃をお見舞いしてやる。

激情に駆られた腕の叩きつけを、いつの間にかネロの背後に回っていたダンテがはじいた。

どうにもネロは、一撃一撃に力を入れすぎる傾向にある。

敵をダウンさせるほどのダメージを与えられるが、反面、その後に隙が生じやすいらしい。

今のも、ダンテがいなければ、確実に食らっていた。

ダンテがリベリオンの一振りで、奴を怯ませる。

その好機を見逃さなかった。

飛び上がって、右腕を振り上げる。

巨大な腕の像が、悪魔の頭を引っ付かんで地面に叩きつけた。

着地した横で、ダンテが

「スゴいなソレ…。一体どうなってんだ?」

とか、から笑いながら言う。

起き上がった悪魔は、明らかに激情を滾らせていた。

大きく呻き声を上げながら、攻撃の手を差し向けた。




 
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