命さへ
□残り香
1ページ/3ページ
憎い。
何も考えず、のうのうと俺の目の前を歩いてるあいつが憎い。
何であんたはそう馬鹿なんだい?
俺にいつ殺されるか知らねぇってのに。
あんたは俺の事まで馬鹿にして。
頼むから、俺の前で笑って見せるな。
俺に笑いかけるな。
その馬鹿面、潰してやりたいよ。
あんたが笑う度に。
俺の中にある憎しみと怒りが沸々と沸き起こる。
隙あれば、殺してやる。
何度も何度も自分の中でそう繰り返した。
耳許で囁かれればあんたの喉を潰し、唇が重なれば噛み切って、舌が絡み合えば食い千切ってやりたい。
と、何度思った事か。
やけに色のある声で名前を呼ばれる度に
じんわりとした鈍い痛みと身震いが生じる。
俺を貫く様な、その真っ直ぐな瞳が憎い。
自信に満ち溢れた堂々とした態度が気に食わない。
人をおちょくる様な喋り方が一々勘に障し、
両腕にびっしりと敷き詰められた、主張の激しい刺青が凄く目障りで。
堪ったもんじゃないよ。
それに。何が一番厭かって言うと。
言うと..
..あの煩い鈴の音が、耳障りだ。
耳鳴りが、頭痛がする程に。吐き気を催す程に。
俺は、あの鈴の音が、一番、一番…
「..嫌いだよ。」