ものがたり。

□わ た し
1ページ/2ページ


「いい?よく見るのよ」

「なんだこの5円玉は」


向かい合って正座する私達の間には、私が紐につるしてぶら下げている5円玉が存在する。

私は不思議そうにそれを見つめていた。
やがてメイはそれを左右にゆっくり振り始めた。



「貴方は段々…」

「ああ、そういうことか」


まさかメイが催眠術をかけることなんてするはずがないと思っていたが、そのまさかだったようだ。

そんな子供っぽいことをはじめるなんて珍しい。


そこで好奇心がわいた私は、徐にメイの手から紐を奪ったかと思うと振った。



「いいかメイ、よく見ているんだ」

「……私がかけたいんだけれど。」


何のつもりかしら、と言いながら 彼女は目の前で揺れているそれを見つめる。



「君は段々、瞼が重くなる」

「そんな…こと……」


次第にメイは目を閉じる。


「段々、腕を前に出す」


メイはゆっくりと両手を前に出す。



「段々、…私、に…抱きつきたくなる」


…言ってて恥ずかしくなってきたぞ。

だが一方のメイはというと、素直に私に抱きついてきた。







……これは面白い。






「段々君は、私のことが大好きで仕方がなくなる…よし!!」

抱きついてきたメイの耳元でそう囁くと 両手をパンと叩いて覚醒させる。


はっ と目を開けたメイは、しばらく無表情で私を見つめていた。


失敗したか?





「…メイ?」

「…な」

「?」

「なぁに?私のレイジ



……は?


何だその蕩けた目は。
こら、小首を傾げるな。
可愛すぎるだろう。






「大好きよ。どこにも行かないで頂戴ね」

ぎゅー、と抱きしめられてしまった。




かかりすぎではないか?
これではもはや別人ではないか。

やり過ぎたと反省した私は、すぐに解こうと思い 解除の暗示をかけようと5円玉を振ったのだが。


「それよりね、私、出掛けたいのだけど。デートよデート。行きましょうよ!」


メイに手を払われてしまった。




…一大事だぞ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ