秘密の二人

□子供の追放
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「…道場破り?」
「はい。子どもが屯所の入り口でそう叫んでます。沖田組長、追い返して良いでしょうか?」

「…まぁ一度僕が見て…話してくるよ。君たちは稽古を続けて」


あーぁ。面倒なことにならなければいいな…と思いながら道場を出て屯所の玄関に急ぐ。

全く…僕はついてないな…

本当なら今日は非番でのんびりしてる筈だったのに、急な任務で留守になる一くんの代わりに隊士に稽古をつけなくてはいけなくなった。
それを大人しくこなしていたら面倒な予感がする報告を受けた。こういう面倒な事は誰かに押し付けたいけど土方さんはおろか僕以外の幹部たちはこぞって仕事などで現在不在なのだ。


「全く…面倒だから斬っちゃおうかな…」


溜め息をつきながら辿り着いたそこには明らかに子どもで、そして明らかに男に化けているつもりなんだろうけどバレバレな女の子が威勢よく“道場破り”と叫んでいた。
いやいや、ここは新選組の屯所で…剣術道場ではないし。

内心そう思いながらも、道場破りという言葉に何故か江戸にいた貧乏道場の頃を思い出して少し気分が楽しくなった。
壬生狼に堂々と喧嘩売る女の子なんて初めてだな。手合わせしてみたいな…なんて思うけれど女の子をボコボコにしたと後々土方さんたちにバレれば長時間の説教は確実に免れない。
ならば脅して逃げ出させるか、摘まみ出すしかなさそうだ。


幕府の組織に刃向かう不逞浪士か、と問うと慌てて首を横に振り否定している。高く結った髪の毛が喜んでいる犬の尾のように揺れている。


…なんか良いおもちゃになりそうだな…


こんな子を暇なとき苛めて遊べたら楽しいだろうな…と一瞬考えた。

何を馬鹿なことを。ここは女禁制の新選組の屯所だと言うのに。


「ひゃっ…!」


襟首を摘まみ上げ、屯所の外までその子を運ぶ。その地に着かない足を懸命にバタバタさせる姿はまるで先日屯所に迷いこんだ猫を放り出したときみたいだ…と思った。


「もう馬鹿なことしに来ないでね。次は斬るよ?」
「私、馬鹿じゃありません!剣術は並みの人間より出来る自信あります!」
「なら隊士の入隊試験を受けたら?ここは道場じゃないから道場破りなんて来られてもどうしようもないけど、隊士ならどうにかできるかもよ?」


「そうですか!じゃあ明日にでもまた改めて出直して来ます!情報をありがとうございました!!」


ペコリと頭を下げてその子は走り去って行った。

えっ…明日も来るの?

また会えるの?



「あ、名前訊いとけば良かった…」


ま、いっか。明日出直して来るって言ってたし…

何だか楽しいことが始まりそうな予感に僕は機嫌よく道場へと戻った。

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