秘密の二人

□入隊の試験
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「では入隊希望の君達の剣の腕前を見させてもらおう。入隊し鍛練すれば確かに今より強くなれる。しかし入隊希望者の君達同士で三回試合をしてもらい一度も勝てなかった者は入隊しても直ぐに命を落とすだけになりかねない…だから三回の試合全て負けた者は入隊を認めない。一度でも勝てば新選組へ入隊を認めよう」

「相手が決まった者は順に幹部の前で試合を始めてくれ」


新選組の局長と副長の言葉に俺の周りにいる入隊希望の奴等は必死に自分が勝てそうな奴を探して試合の相手にしようとしている。正直馬鹿らしいと思えた。


「俺と試合をしないか?」
「いやいや俺と!」

「…」


俺は昔から女に間違えられる顔つきと小柄な体だから“こんな女みたいなひょろっこい奴なら簡単に勝てるだろう”と考えているのだろう。俺に試合を申し込む奴らの顔にはそう書いてある。


「俺はもう少し相手を考える。まずは他の試合を見学してみるから」


「なんだよ!負けるのが怖いのか?!」


断ると予想通り文句を次々に言われる。本当に俺が今日は来て良かった…と心の中で安堵した。

昨日屯所に侵入した千鶴はすぐに追っ払われたが、そのとき“隊士を常に募集している”ことを教えられ、今日男のフリをしたまま入隊の試験を受けに行くと朝から張り切っていた。
千鶴は確かにそこらの人間より強いけれど、男の俺の方が戦闘は得意だし、男だらけの場所に千鶴を放り込むなんて考えただけでも嫌だった。
だから俺が入隊の選考を受け、隊士として屯所に潜入するためやって来たのだ。さすが京以外にも野蛮な噂が絶えない新選組の入隊試験は方法がえげつないな…と思った。
給金目当ての大した腕のない奴を追い払うには良い選考方法だな、とも思うが…



「お前さぁ、いつまで見学してるつもりだ?お前だって一本を取らねぇと入隊できねぇぞ」


状況を見守る幹部の一人である藤堂平助が俺に声をかけてきた。


「別に…どうせ試合をするなら楽しめそうな奴としたかっただけだ」


吐き出すように言ったその言葉に偽りはない。いつも鍛練は千鶴と二人でやってきた。年を重ね成長する毎に性別による体格差は同じ鍛練をしていても生じるようで、千鶴との力の差を感じてきていた。千鶴にはバレないようにいつも自分の力を抑えてきた。全力を出して戦える相手に出会えたらどんなに楽しいだろうか…実は常に心の片隅で考えていた。
今、目の前で繰り広げられている入隊希望者たちの試合はどいつも子どものチャンバラ遊び程度にしか見えずガッカリしていたのだ。


「ふ〜ん…じゃあ僕とやろうよ?」


隅の方でつまらなさそうな顔をして座っていた男が俺の方に歩いてきた。ザワザワと道場内が俄に騒がしくなった。


「そ…総司!お前が何で…」
「煩いなぁ平助は。ねぇ土方さん、僕が試合しても良いでしょ?」


「ったく、手加減しろよ…相手は餓鬼だ」


副長の言葉に俺は苛々した。人間ごときが笑わせる。


「手加減なんか要らないよ。俺は強いから」
「そう?なら良かった。退屈せずに済みそうだね。土方さーん、審判よろしく〜」


…隊士として潜入は間違っていたかもしれない。こんな弱い人間の集まりに馴れ合うフリをするより別の潜入方法を考えよう…まずはこの一目見たときから気に食わない人を小馬鹿にしたような眼をしているコイツをボコボコに叩きのめして、それが騒ぎになった混乱に乗じてここから逃げよう。

俺はそう考えをまとめて木刀を握った。


「はじめ!」


号令と同時に床を蹴り素早く飛び上がる。


「早い…!」
「早すぎて見えない!何者だ…!?」


ざわめく周囲の言葉は俺の振り下ろす木刀が風を斬る音を巻き起こし微かな雑音として消していく。

俺の体が相手より小さくても頭上から落下の勢いも合わせて鬼の力で振り落とされる木刀の衝撃に人間は持ちこたえられるわけはないだろう。
下手すれは頚の骨が折れてしまうだろうし。


「これで終わりだ…!」


この気に食わない奴に俺の渾身の一撃を…!


「…ん?」


打ち込んだ感覚が予想とは異なった。急いで距離を取り様子を見てみると、驚いたことにソイツは俺の一撃を木刀で受け止めていて…まだ立っていた。


「驚いたな…俺の一撃で倒れない奴が居たなんて…」
「平隊士ならともかく…新選組を舐めてもらっちゃ困るな…じゃあ僕も手加減しないからね…!次は僕の番だ」










その後、幹部総出で取り押さえられるまで俺達の試合は続いた。


「結局一本は取れなかったので不合格ですよね?俺は帰ります」


そう言って一勝もできず入隊不可と言われた奴等と一緒に道場を出ようとしたら副長に腕を捕まれた。


「なに寝惚けた事を言ってんだ。お前は今日から一番組所属の隊士だ」
「えっ…?」
「……僕の部下ってことだね。たっぷり可愛がってあげるよ、か・お・る君?」


こうして俺は憎き沖田の部下となってしまうのだった。

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