秘密の二人

□沖田の企て
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「珍しいな、お前が入隊希望の隊士の選考を見たいと言うなんて」
「昨日面白い子どもに会ったんですよね〜」
「…?なんかわかんねぇけど総司が昨日から機嫌が良いのはそのせいか?」


土方さんと平助と話をしながら道場へ向かうと入隊希望の弱そうな奴らの中に埋もれている小柄の子どもがいた。


「あれか?総司の言ってた面白い子どもって」
「さぁ……どうだろう?」
「はぁ?もう忘れたのかよ?」


平助が呆れたように言うけれど、そうじゃない。昨日のあの子と顔はそっくりだけど纏う雰囲気が違った。絶対に別人だ…そしてコイツは男だ。
何より直感で僕はコイツとは気が合わないな、と思った。


「やっぱり興味なくなったんで僕は隅で見学してまーす」


土方さんの苦情を聞き流しながら、壁に凭れて入隊しても殆ど使い物にならないだろう希望者たちをボーッと眺めていた。
するとあの子によく似た…名は薫と言ったそいつだけが未だに試合をしておらず見兼ねた平助が声をかけていた。
一体何が目的で新選組に近付くのかは知らないけれど叩きのめしても良いかな?僕は退屈な時間が少しは楽しくなれば良いなと思い立ち上がった。

僕と試合をすることになった薫は木刀を構えると途端に殺気を滲ませながら驚異の跳躍力をみせた。


「な…っ!」


あの俊敏さ…まるで羅刹のようだ。でも彼は日中こんなに元気に飛んでいるし、髪も黒いし、目は赤くない。一体何者なんだろう?
その疑問は打ち合いをしているうちに霧散していく。気を遣わずに全力で向かっていける相手なんて新選組の幹部の一部の人以外に初めて会ったな。

あぁ楽しい。一本取られたらコイツはどんな悔しそうな顔をするんだろう…?早くその顔を歪ませてみたい…


お互い夢中になりすぎて、気づけば僕と薫は幹部連中に抑えられて試合は決着がつかないまま終わった。
そのまま帰ろうとする薫を土方さんが掴んだ。薫を一番組に入れると僕に相談なく言ったことに一瞬腹を立てかけたが、力はあるけど不確定な要素が多い彼をいざというとき押さえるなら僕が一番良いのだろう。
それに直属の上司になれるんだからいっぱい苛めて遊べるしね。僕はちょっとこれからが楽しくなってきた。


「まず、君は他の隊士たちと同じ部屋で寝泊まりして、明日は朝は稽古をしたあと昼は巡察、夕方は雑用…」


簡単に一番組所属新人平隊士に明日の予定を説明していると、薫は慌て出した。


「あ、あの、俺は近くに住んでいるので屯所に住み込みではなく通いという形にしてもらえないでしょうか?」
「なんで?夜の巡察の日もあるし…通いじゃ動きにくいし何かあったとき間に合わないかもしれないでしょ?」
「で…でも…」
「家を引き払ってここに住んだ方がお金だって浮くのに」
「い…家には病で臥せている家族がいて…どうしても帰りたいんです!」


そのとき、僕らの会話を通りがかり聞いた近藤さんがそれは大変だ!と言ってきて彼は特別に通いでの勤務を認められた。平隊士の癖に…












「総司…薫から目を離すなよ…アイツの素性は監察にも探らせるが…」
「わかってますよ土方さん。アイツのあの動きは…人間業じゃありませんでしたし。たぶん抑えてたんでしょうけどね…馬鹿だから加減が下手なんでしょう」


新入りに待ち受ける屯所での生活は凄い。早朝から山のようにある沢山の仕事を僕は他の隊士と通いの薫に分け隔てなく同じ量を与えてあげた。
つい熱が入り夜遅くまで続く稽古にも“通いだから君はもういいよ”と言うこともなく他の隊士と平等に接してあげた。
っていうか、どちらかというと通いの薫により多くの仕事を振り分けてあげた。その方が通いという立場でも早く新選組に馴染めるかなぁって考えたんだ(ってことにしておくよ)
雑務と本来の任務、稽古…体力は他の奴よりあるみたいだね。いつまで泣き言を言わずにやれるかな…?
すっかり僕は部下の成長を見守る心優しい上司になっている。
僕って優しいなぁ…こんな上司の下で働けて薫は幸せものだよね…

…ねぇ、そう思うでしょ?
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