秘密の二人

□同居の初日
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私と薫は仲の良い双子だと新選組の方々に認められ、仲良く二人揃って屯所に住むことになりました。
でも、私たちは性別が違うので薫は他の隊士さんたちと大部屋で生活、私は沖田さんの部屋で建前上小姓という名目で生活することになりました。
沖田さんと言えば、先程私の身に施した謎の術。あれは凄かったです。指だけで私の体の自由を奪って意識を混濁させることができるなんて…
あれは何と言う術なんでしょうか?新選組の道場ではあの術の鍛練をしているのでしょうか?

私たちの処遇が決まり、何か困ったことがあれば訊いてくれ…と白い襟巻きが素敵な斎藤さんが言ってきてくださったから、その秘術について訊いてみたけれど彼は“俺は知らぬ…”と襟巻きでお顔を半分以上隠して走り去ってしまった。
沖田さん本人に訊ければ良いのだろうけど、先程薫と言い合いをしながら私より先にお部屋を出て行ってしまっているし…


「副長の土方さんならご存知ですか?」
「……その術については気軽に口にするな。良いか、特に兄の薫にはその話絶対するんじゃねぇぞ」
「…は…はい」


背後にいつの間にか立っていた土方さんに聞いたけど教えてくれそうな雰囲気は全くなかった。


「あれは…私たちが探している“新選組の秘密”じゃなさそうだし…まぁいっか」


屯所内を案内してもらいこれから私にお手伝いさせて貰えそうなお仕事を確認し終えたあと、お部屋に戻りながらそう一人呟いた。

薫だけじゃなくて私も堂々と潜入出来たなんて、よく考えればとっても良い好機だ。気持ちを前向きに切り換えたとき、沖田さんのお部屋の前に辿りついた。


「…失礼しても良いですか?」
「…一応、君の部屋にもなるんだし良いんじゃない?その辺にある座布団でも使って座ってたら?」
「あ…あの!沖田さん…お茶をご用意しましょうか?」


同じお部屋でお世話になるわけだし、できれば嫌われたりすることなく円滑な人間関係を築きたい。そう考え、早速小姓っぽいことを訊いてみた。これで沖田さんの機嫌が良くなって、あの術や新選組の秘密をボロボロ勢いで喋ってくれないかな…という淡い期待を少し抱いて。


「…要らない。あと、小姓っぽいことしなくて良いから!僕の周りを極力彷徨かないで。目障りで苛々する」


沖田さんは今まで見たこともない邪悪な気配を滲ませながら私を睨んでいる。
これは不味い。こんなピリピリした空気で同室なんて私の繊細な胃に穴が開いてしまう。開いたところで鬼だからすぐ塞がるんだけれども…
すぐ治るにしても胃痛に苦しむ毎日なんて嫌だ。これは同居を即解消すべき事案だと思う。


「えっと…じゃあお部屋…どうしましょう…私、土方さんにやっぱり大部屋で薫と一緒にってお願いしてきますね…」


こんなに沖田さんは刺々しい人だなんて知らなかった。

お前は邪魔者だという迸る視線の殺傷力は凄まじく、部屋に入り三秒で心の折れた私は頭を下げると部屋を出ようとした。


「ちょっと!どこに行くの?」
「え…だから、沖田さんのお部屋じゃない場所に移動させてもらうために土方さんに相談をしに…」
「だから君はこの部屋を使えば良いって言ってるでしょ!」
「で…でも…」
「僕は今から少し出掛けるから、僕の部屋でしっかり留守番しといてね」







反論を受け付ける間もなく沖田さんは立ち去ってしまった。
あんなに迷惑そうにしてる様子から沖田さんにとって私は邪魔な存在なのはよくわかる。けれど空気を読んで部屋を去ろうとする私を止めて部屋の留守を任せるなんて矛盾している。


「嫌なら追い出せば良いのに…」


今更私は追い出されることに傷ついたりしないのに。
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