秘密の二人

□屯所の噂話
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屯所に暮らすようになって月日は流れ私はすっかり新選組の幹部の皆さんと打ち解けて、幹部の一人である八番組組長を“平助くん”と名前呼びするまでになった。
沖田さんの小姓の仕事はなく(小姓っぽいことをしようとすると半目で睨まれるし)隊士として居るわけでもない私は巡察などもしない…肩身が狭すぎる私は得意な家事一切を引き受けて、洗濯、掃除、食事の用意と毎日張り切って働いていた。
家が滅ぼされてからずっと薫とほぼ二人で生きてきて…こんな大所帯で暮らしたことはなく、沢山ある仕事に大変さよりも楽しさを感じていた。

私は毎日張り切りすぎて本来の目的を忘れかけていた…そんなある日。


「…またいつもの癖で…」
「その湯飲みは置いていけ。誰かが飲むだろう」
「はい…失礼しました…」


広間で皆さんが会議をしているときにお茶を用意して持って行ったのだけど、今はもう居ない山南さんの分まで癖で用意してしまい、皆さんにお茶を配り終え…お盆に一つ残った湯飲みを見て泣きそうになった私に土方さんはぶっきらぼうだけどそう気遣って言ってくれた。

腕を怪我していたけど…まさか死んでしまうなんて…人間って何と弱く儚い生き物なんだろう。
トボトボと廊下を歩いていたとき…


「…千鶴」


「か…薫?」


「しっ!静かに…ちょっとこっちに…」



最近は隊務が忙しいらしく同じ建物に住んでいても殆ど会うことのなかった薫が庭の木の影から手招きしていた。
庭じゃ誰かの目につくから屋根の上に…と合図され、私は薫に指示されるがまま屋根の上に跳んだ。


「どうしたの薫…」
「千鶴、やっとそれらしい噂を掴んだぞ」
「噂…?」
「あぁ。ここは八木邸、あっちは前川邸なのは知ってるよな?」
「うん。前川さん家は行っちゃダメって皆さんに言われてるけど…」
「その前川邸で…死んだ筈の山南総長を見た奴がいるらしい…」
「えぇ…おっ…おばっ…お化け…?!」
「いや…たぶん…あの薬に関係してると思う…」
「まさか…」
「噂で山南総長を見た場所っていうのが…厠のある廊下を突き当たった所らしい…」
「厠の…それは…におうね…」
「そう思うだろ?俺は隊務の隙がなかなか無くて前川邸に潜入出来そうにないんだ…千鶴、隙があれば…」
「わかった!私に任せて…!」
「じゃあ…俺は行くね」
「うん!薫、気をつけて」


ヒュンと薫が風のように消えたあと…


「千鶴ちゃん、お盆を勝手場に持って帰る途中で、何で屋根の上に乗ってるのかな…君」
「あ…えっと…あの…道に迷っちゃって…」


入れ違うように現れた沖田さんに私は冷や汗を流しながら必死に誤魔化した。
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