秘密の二人
□毛根の死滅
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「ご…ごめんね…綱道…間違えたみたいで…」
恐る恐るといった様子で千鶴ちゃんは綱道さんに謝っていたけれど、綱道さんは毛根が死滅した…という衝撃にこの国を乗っ取るという野望もすっかり無くしてしまったようだった。
「どこか…海辺の町で…ワカメ…海草…モリモリ食べるぞ…」
やがてフラフラと立ち上がると綱道さんは海草の力に毛根復活の希望を抱いたのか、海の方を目指して歩き始めた。
そんな立ち去っていく綱道さんから彼らから盗んでいた薬の製法が書かれた頁の紙がひらりと落ちた。綱道さんは落としたことに気付いていないのか、もうどうでも良いのか拾おうともせずにそのまま振り返らずに歩いていく。
「組長、どうしますか?捕縛しますか?」
「うーん。もう放っておいて良いんじゃない?」
はらりはらりと風に乗って変若水と鬼くだしの製法が書かれた紙が千鶴ちゃんの手の上に舞い落ちた。
「…これで山南さんの毒を消せますね」
「一月はお腹を下すんだろうけどね…」
にっこり笑った千鶴ちゃんに僕が答えると、あぁそう言えばと思い出したように千鶴ちゃんは言った。
「私は“鬼くだし”の副作用を抑える力を持ってるんです」
「へっ…?」
「なぜかはわかりませんが、私が鬼くだしを飲んだ人の体を…特にお腹の部分を擦っていれば薬のきつい副作用出ないんです。昔、間違えて鬼くだしを飲んだお婆ちゃんのお腹を私は一月付きっきりで擦ってあげたことあるんですよ〜」
…腹を下す、という副作用が出ないにこしたことはない。だけど、それは千鶴ちゃんが山南さんから一時も離れずに、一月もの間…山南さんの腹を擦り続けるということなんだろうか。
妹に対してかなり過保護で溺愛具合が見ていてかなり痛々しい薫が何か異議を唱えないのか…と思って彼を見るけれど“千鶴の手にしかその力は宿ってないからね”と一番肝心な部分を気にしていないみたいだ。ホント、いざという時に役に立たないな薫って。
何であの子が他の男と…
僕が心のなかで吐き出した猛毒のような気持ちは、あの薬を飲めば解毒されるのだろうか…?
「ゲホッ…ゴホ…ゴホっ」
「沖田さん、最近咳がなかなか治りませんね…大丈夫ですか?」
「…大丈夫だよ」
「あっ…」
僕の顔色を見ようと顔を近づいた千鶴ちゃんの動きを無視して僕は羽織を翻すと隊士たちに報告するから屯所へ戻ると伝え一人でさっさと歩いて帰った。
後ろで千鶴ちゃんが何か言っていたけど、今は何も聞きたくなかった。
この気持ちは何なのか。
わかっていたけど、知らないフリをした。そんなバチが当たったのかな…