秘密の二人

□同居の初日
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「眠い…ダメダメ…沖田さんが帰ってくるまで待っとかなきゃ…先に寝たらきっと寝てる間に簀巻きされて川に捨てられる…」


夜も更けたというのに、部屋には本来の部屋の主が帰ってこない…
沖田さんは大人だからって夜更かしは良くないと思う。留守を預かる私の睡魔と戦う辛さなんて知らないんだろうな。
流石に同居初日に部屋の主より先に寝ちゃ駄目だろうと頑張って起きてはいるものの眠くてガクンと頭が下がる衝撃で何度も目を慌てて開けている。


「ちょっと…部屋を出て気分を変えようかな…」


廊下に出ると、白銀に光る月の光が庭を照らしていてとても幻想的な美しさだった。


ヒュン…ヒュン…ビュン…!


ふと、空気を裂くような音が聞こえて、その方向へ自然と足が進む。


「あ…っ」


その先には木刀ではなく真剣を舞うように振るう沖田さんがいた。
沖田さんの振るう剣先がキラキラして見えるのは月の光を細かく裂いて身に着けているのだろうか?
剣術は師などおらず自己流で薫と二人でやってきただけだったけど、こんなに美しいと思える剣を私は初めて見た。


「…新選組って凄いんだなぁ…」


「何で君がそんな上から目線なことを言うの?」
「あ…沖田さん?どうして気付いて…?!」
「あんなにわかりやすく隠れもしないで見てて気づかない馬鹿は居ないと思うけど」



稽古の邪魔をしてしまったみたいで、さっきのお部屋みたいに不快な感じを隠さずにぶつけてくるのかと思ったら沖田さんは全く黒くない自然な笑顔を浮かべ剣を納めた。
さっきまでの黒沖田は何処に?実は沖田さんも双子?様々な疑問は浮かぶけれど、どうやら沖田さんはここに一人しか居ない。気分次第であんなに刺々しくもなれるなんて凄いなぁ…
今、目の前に居る沖田さんは“剣の凄腕、爽やかお兄さん”という愛称がぴったりな人だった。


「子どもは寝る時間過ぎてるよ?なんで起きてるの?」
「だって…沖田さんにお休みなさいってご挨拶してないですし…」
「はは…そっか、ごめんね。じゃあ部屋に戻ろうか」
「はい…!」



沖田さんが笑ってくれると、私も嬉しかった。
さっきの黒沖田の恐怖を忘れるくらい沖田さんの黒い気配のない笑った顔は素敵だと思った。

きっと沖田さんや他の皆さん…皆良い人なんだろうな。

早くアレを見つけて消さなくちゃ…。この人たちを巻き込まない為にも。



私はそう改めて心に誓った。
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