僕は最低なことをした。そして僕はもっと最低なことに、それを後悔していない気持ちの方が今でも勝っている。
世界で一番大切で、大事に、守りたいと願い続けた妹を。僕はこの手で滅茶苦茶にした。

「こんなこともう止めよう」
「お願い!もう止めて!」
「助けて…総ちゃん…」

ーー僕に無理矢理奪われて泣き叫ぶ千鶴の声が今も耳の奥に焼き付いていて消えない。



取り違えの話を聞いて、真っ先に僕が思ったことは【千鶴ちゃんと恋人になれる】という今までなら叶うはずがないと諦めていた心からの願いだった。

恋人になるなら血の繋がりがないなら問題ない。そう思う一方で、今まで築き上げた兄と妹の絆を大事にしたい気持ちが暴走しかける感情にブレーキをかけていた。
……でも少し考えてみると、不安な気持ちが膨らんでいく。果たして千鶴は僕が他人だと知らされたらどう変わるだろう?
あの腹黒い女の娘なのが信じられないくらい千鶴は純粋で少しおっとりしているところがある。きっと今までの一緒に育ってきた時間を大事に思い、他人になったあとでも僕を兄として慕ってくれるだろう。

でも僕と取り違えた、彼女にとって本当の兄が現れたら……千鶴はその男も兄として慕うのか……?やがて心も時間の差を超えて本当の兄妹になるのだろうか。

そうしたら僕は?僕はどうなる?

彼女のなかで昔一緒に住んでたことのある赤の他人になるのかな?千鶴の生きていく未来に、僕の居場所はあるの?

きっとこのままじゃ無くなってしまう。血の繋がりのない僕らの兄妹の絆なんて砂で固めたつもりの鎖みたいに脆く崩れやすいんだ。

短絡的な思考回路の僕はまだ何も状況を知らない千鶴のなかに無理矢理僕を男として刻んだ。いつか忘れられるのなら、絶対に忘れられない、深い傷でいいから僕を刻み込んで。永遠に僕の影に囚われていくように痛みと恐怖と、少しの快楽を何度も何度も無理に開花させた彼女のなかに解き放つ。

兄として生きてきた僕の心が泣き叫ぶ千鶴を見て【止めなくちゃ】と微かに思うのだけど、その気持ちの何倍も大きな真っ黒な本当の僕が泣き叫ぶ彼女の姿にさえも欲情していた。
そんな僕の真っ黒な欲望を浴び続けても千鶴は真っ白で少しも汚れたようには見えなかった。どんなに僕を刻みたくても無理なのだろうか。

どうしようもなくやるせなくなって、冷静になった僕は気を軽く失った千鶴を彼女の部屋へ運んだ。

「…ごめんね」

眠る彼女の頬をそっと撫でる。後悔なんかしていないのに、涙が止まらなかった。最低な、兄でごめん。
いや、最後まで兄でいれなくてごめん。


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