流れ行く時
□恋情
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「菫。 指名が入った。」
『指名? 誰でしょう?』
「さぁ。」
『分からないのですか?』
「いいとこの若君だったとは思うけど」
女将さんが苦笑いする。
「忙しくて聞き流しててね。」
『さようですか。』
「それより、例の客はどう?」
『皆様、良い方々ですね。』
「惚れちゃならんよ。」
そう。
この世界では 恋 は命より大切だ。
誰かを好きになれば。
この商売は出来ない。
『惚れなどいたしません。 女将。』
私は女将に背を向け歩き出す。
「ゆりの間だよ。」
私は一目散にゆりの間に行く。
そこでどんな悪夢が待っているかも知らずに。