BLEACH
□線香花火
1ページ/2ページ
線香花火には悲しい思い出しかなかった…
**線香花火**
「ほらよ、ルキア」
庭ではしゃいでいる皆の様子を縁側で一人座って眺めている私のところへ一護がやって来た。手には線香花火。
おもむろに、おまえの分だ。と私に渡す。
「……」
「どうした?」
手渡された線香花火を見つめたまま微動だにしない私を怪訝に思ったのか、一護は眉をひそめ、私の隣に座る。
まるでそこへ座るのが当たり前のように、自然に私の隣に座った一護の行動がなんだか嬉しく思えた。
「ルキア?」
心配そうに私を覗き込む一護に苦笑する。
――お前のそんな顔、他の奴が見たらきっとびっくりするぞ?
「なんでもない。少し考え事をしてただけだ」
顔を上げて一護を見る。
私の答えに満足したのか、またいつもの表情に戻っていた。
「そうか」
「どんな『考え事』か聞かなくていいのか?」
「それは俺が聞いておかなければならない事なのか?」
「いや」
「なら聞かねぇ」
一護は必要な事以外あまり色々と追求することが無い。
人の心の中に踏み込んで来ることが無い。
一護らしいといえば、一護らしい。
一護はあの人とは違う。
似ているようで全く違う。
でも、どこかあの人を思い出させる。
――線香花火。
あの人が好きだと言っていた。
あの人がまだ、生きていた頃、十三番隊の皆で花火をした事があった。
「朽木!手伝ってくれー!」
「か、海燕殿!?何ですか!?」
海燕殿の手からバラバラと落ちてきたのは、無数の花火。
「花火?」
「おう!今朝、実家から届いたんだ。今夜は隊のみんなで花火大会やろう!」
少年のような笑顔で私に言う海燕殿の姿がなんだかおかしい。
「もちろん、朽木も参加だ!」
「はい!」
その日の夜は十三番隊だけでなく、他の隊の人間もいて、ちょっとしたお祭り騒ぎだった。おそらく、海燕殿が他の隊にも声をかけたのだろう。
「朽木、ほら」
「あ、ありがとうございます…」
海燕殿から手渡されたのは線香花火だった。
二人で向かい合ってしゃがみ、線香花火に火を灯す。
チリリ…と小さく音を立て、線香花火は火の華を咲かせ始める。
「俺は、花火の中では線香花火が一番好きなんだ」
うつむいていた顔を上げ海燕殿を見ると、海燕殿は苦笑した。
「意外そうな顔だな」
「えっ…」
「はは。気にすんな。確かにあまり俺らしいイメージじゃないしな」
「いえ…」
「派手で華やかな花火もいいんだが、線香花火は趣きがあって好きなんだ」
「わかる…気がします…」
「そうか」
嬉しそうに笑う海燕殿の姿に胸の奥が暖かくなった。
その日から、私も線香花火が好きになった。