あなたがいるから…

□新緑
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新緑。
緑がきらきら光る並木道。そこに一人の女性が立ち止まりいとおしそうに木々をみあげる。
風が女性の金色の髪をさらさらとなでる。
「ホークアイ中尉ー!」
「あら、アルフォンス君じゃない。こんにちは。」
「こんにちは!よかった〜。中尉で。今日は髪を下ろしてるから、一瞬誰だかわかりませんでしたよ。」
「今日は、非番だから…。買い物の帰りなのよ。」
遠くから駆け寄ってきた大きな鎧姿の人物と親しげに会話しその女性はにっこりと微笑んだ。
傍から見れば異様な光景なのだろうが、彼女、リザ・ホークアイにとってはごく日常な事である。
「どうしたんですか?空を見上げて。何かあるんですか?」
鎧姿の人物はそう言うと、リザの視線のさきを見上げた。その言動から彼、アルフォンス・エルリックは姿に似合わず、案外幼いのかもしれない。
「ふふふ…。違うの。」
それを聞いてリザは少し照れたように笑った。
「ちょっと、昔を思い出しちゃったの、大佐と初めて会った時のこと。」
「え、大佐?…って、あのロイ・マスタング大佐の事ですよね?」
「そう。大佐と会った時もこんな緑のキレイな日だったわ。」
リザは軍人である。いつもは、もっときびしく、緊張した雰囲気で、悪くいえば近寄りがたい。そんな、軍服に身を包んでいる時の彼女しか知らないアルにとって、今日の彼女はとても新鮮だった。
だから、いつもでは聞けないようなことが不意に口からこぼれてしまった。
「聞きたいなぁ…。その時のこと…。」
上を見上げていたリザの視線がアルの方に向いた。失礼な事を聞いてしまったかなと、アルは少し後悔した。…が、
「そうね、聞いてくれるかしら?」
想像もしていなかった言葉が笑顔とともに返ってきた。アルは、ホっとして
「じゃあ、そこのベンチにでも座りませんか?」
と、リザをエスコートした。
「ありがとう。」
二人はベンチに座って、一息ついた。そしてリザが口を開く。

「私はまだ学生だったわ。大佐は軍に入ったばかりで…」
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