oz始めました
□No.2
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【続いて人気絶頂の歌い手、グレンの登場だー!】
アナウンサーの一言により画面が揺れるのではというほどにわき上がる歓声は、狼の耳と尻尾を生やした青年。
――いや、少女のアバターに向けられていた。
少女はその端整な顔を隠すように、口元へ巻かれた布の下で口角を上げる。
目を細め光を反射し輝く銀色の狼の耳をピクピクと動かす姿は、なんとも嬉しそうだ。
【今日は集まってくれてサンキューな。今から歌うのは桜舞う 今という曲だ。聞いてくれ!】
黒い指出しタイプのグローブを着けた手が掲げられ、指が鳴った事を合図に会場内のライトが全て消えた。
代わりにつけられたスポットライトに、会場内は静まり返る。
物音一つしない静寂の中に流れた音楽に身を委ねた少女は、リズムを刻みながら息を吸った。
【 桜舞う 今 サヨナラを告げるよ
僕ら それぞれの明日へ 】
そのやわらかくも凜とした、その澄んだ歌声は、一瞬にして会場全体を魅了する。
彼女こそ天才だと人々は囁く。
故に妬みひがみを向けられる事も少なくはなかった。
バトルエリアで一斉に襲撃を仕掛けた者もいた。
――全ては努力の賜物だと知らずに。
が、そんな事で沈むような繊細な人間ではなかった。
幾度となくダメージ一つ受ける事なく返り討ちにしたため、今ではそんな不届き者はいない。
【 桜舞う 今 サヨナラを告げるよ
消えぬ思い出を抱きしめて
ふわり舞う 花 春風に包まれ
僕らそれぞれの明日へ 】
ポップな曲調とは打って変わり、切なげながらも優しい歌詞はその場にいる全ての心に染み渡っていく。
曲が終わってもなお会場内は、その優しい時間の余韻にひたっていた。
【聞いてくれてありがとな】
突然ついた全面ライトによって我に返った者から自然に拍手や歓声が湧き上がる。
気恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに目を細めた少女は、大きく手を振り返してログアウトした。
キーボードを叩く音が止まりセミの鳴き声が外から響く部屋の中で、アバターをログアウトさせた俺は軽く伸びをする。
「お疲れ。今日も大成功、だな」
会場は満員だったし、拍手してもらえたし。
パソコン画面に映るアバター……グレンに笑いかけながら画面越しに頭を撫でると、グレンが目元をなごませた気がした。
俺が使用するのは基本携帯かPSPだが、歌う時とバトル時はこのパソコンを使用する。
無論マイク含め高性能。
スポンサーからのみつg……ゲホゴホ、頂き物だ。
個人的には片手で手軽に扱える携帯か、ボタンの少ないPSPの方が好きなんだ。
でも、PSPや携帯のスペックだとタイピンクについていけない。
マイクを接続出来るのはパソコンだけだし。