oz始めました

□No.3
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あれから機嫌の悪い佳主馬を必死でなだめていた俺は、納戸についた時にはすでに力尽きていた。

理由がわからない分、余計に疲れたわ。

それでもスポンサーからのメールの返信をする手は止めない。

義務だからな。

「なぁ佳主馬」

「……何?」

佳主馬は机のパソコンから顔を上げないまま、俺は佳主馬の背中に身を預けて携帯から目を離さないまま、会話を続ける。

「夏姉まだかな、そろそろ天使と戯れたい」

「僕が知る訳ないでしょ」

ごもっとも。

中学生に言い負かされる精神年齢【自主規制音】歳ってどうなんだろう。

正統過ぎるお言葉にぐうの音も出ない自身の行く末が心配になり、思わず遠くを見つめる。

「ていうか、天使とかバカじゃない?」

「あの子を天使と言わずなんと言う。姫か、それとも女神か」

呆れたような声色に眉をひそめるも、夏姉の笑顔を思い浮かべながらやわらかく目を細め、間髪入れずに反論すると、何故か大きなため息が聞こえた。

……あぁ、そういえば真緒や加奈、祐平、真悟達も天使だもんな。

俺とした事が、我が癒しを片時でも忘れてしまうとは……。

「……そんなに気になるの?」

不意にタイピング音が止まった事に目を丸くするが、すぐに何を指しているか気付いてふっと笑みをこぼした。

何が、とは聞かない。

そんなのわかりきってるから。

「さぁ、どうだかな」

目を閉じれば鮮明に思い浮かぶ、少し頼りなくて情けなくて、でも凄くあたたかくて優しい笑顔。

早く会いたいな……。

昔の記憶に思いを馳せていると咎めるように肘で突っつかれたため、肩をすくめながらもメールの仕分けに集中する。

無言でも苦痛じゃなく、むしろ心地いい空気だと感じるのは、きっと気のせいじゃないと思う。

返信ボタンを押した時、納戸が引かれて急に光が入り込んできた。

俺の記憶違いじゃなければ……。

その眩しさに目を細めながらも見上げた先にいた人物に、思わず笑みをこぼす。

「――久しぶり、健二」

金魚のように口を開閉させながら固まる健二をよそに、状況が掴めないのか目を瞬いた佳主馬へ携帯を押し付ける。

次の瞬間、勢いよく立ち上がって健二に抱きついた。

「っちょ、ええ!?」

コイツの名前は小磯健二。

これから始まる物語の主人公で、血の繋がった本当の従兄弟。

お互いの両親が共働きという事で、幼い頃は助け合いながら生活していたのだ。

……まぁ、家事とか勉強教えるのとかは俺がしていたけど。

いや、精神的な面で支えてもらってたんだよ、うん。

「ま、待ってよっ。なんで君がここにいるの!?」

突然消えた従兄弟が憧れている先輩の本家にいたんだから、この驚きっぷりも無理はないだろう。

わかりやすく慌てる様子にさすがに可哀想になって彼から離れ、それでも本心は悟らせぬよう、弧を描く口元に立てた人差し指を添える。

「さぁ、何故でしょう?」

冗談めかして含み笑いをこぼす様子がシャクに障ったのか、どこか拗ねたように睨んできた健二に肩をすくめた。

いやー、だって、ねぇ?

不意に明後日の方を向く俺の背後から、突然健康的に焼けた手が回ってきた。
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