書物その3

□成功の失敗
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「誰の言葉かは忘れたけど…誰かがそう言ってたんだ、昔。」
神「ふーん。」
「……誰かに言われたといえば………。」
神「どうかしたのかい?」
「まだあたしが生きていて、旅先で出会ったとある人から言われた言葉があるんだよね。」
神「へー、何て?」
「君は、武器を持っているようだけどそれは恐れだって……。」
神「恐れ?」
「その人曰わく、武器というものがあるから人は互いを傷つけ合うんだって。
傷つけ合うのは、自分にとって何かを守りたいから。
だから人を傷つけているんだって。
でも、武器が無ければ傷つけ合う心配もないし、何かを失う必要もないって。」
神「成程、夕鈴ちゃんは臆病者さんってわけだね。
………それで、君は何て言ったの?」
「あたしはこう言ったんだ。
「そうです、あたしはいつも怖がっています。
人を傷つけるのは、いつだって人ですから」って……。」
神「成程ね。
…でも確かにその人の言うことも分からなくもないかな。」
「まぁねー。
あたしもそう思う時はあるかな。」
神「でも武器を持っているのは仕方ないことだと僕は思うよ?
旅をしていたら危険が伴うわけだし、何かと不便だし。」
「それに、旅をしているとたまに戦乱に巻き込まれる時もあるからさ…。
油断は出来ないんだよね、これがまた。」
神「その油断が原因で君は死んじゃったんだけどね。」
「そ…、それは言わないでよ!(汗)
実はちょっと未だに気にしてるんだから……。」
神「あははっ、それは悪かったよ。
………っと、そろそろみたいだね。」
「えっ、何が?」
神「君の転生の準備、整ったみたいだよ。」


「とうとう転生かぁー…。
なーんか、怖いような楽しみなような悲しいような嬉しいような……変な気持ち。
転生してきた人達って、皆こういう思いをしてたのかな?
でもなんか、そう思うのはあたしだけっぽいなぁ。」
クスッ、と笑みがこぼれた。
神「はは、そうかもね。
でも、そういう心持ちも悪くないだろう?」
「…確かに、ね。
こういうのも悪くない、かな………。」

そうポツリと呟いた。


神「……あぁ、それと夕鈴ちゃん。」
「?」
神「さっき、僕は「未来では何も影響は出ない。」と言ったと思うけど…。
実を言うと、それは確証がない。
仮に君が覚えていても、何らかの影響が出ていたり、記憶を忘却していたりする可能性も無いとは言えない。
でも君なら……。


例え記憶を失ったとしても、君ならきっとまた取り戻せると僕は信じているんだ。
そう僕が信じられるのは、君だからだよ。
これから先、色んなことがある。
辛いこと、苦しいことは数え切れない程ある。
でも君ならそれを乗り越えられる。
乗り越えられるだけの力が、何かがあるんだ。
だから…決して最後まで諦めては駄目だからね。



僕は君を……夕鈴を信じるよ。」
真剣な表情でそう言った目の前にいる神様は、あたしの知っているようなおちゃらけた雰囲気を一切出していなかった。
いつも砕けたような口調でヘラヘラと笑っていることが多いから、こういう真面目な面持ちがあると思わずドキッとしてしまう。
神「あぁ、それともう一つ。
君が仮に記憶をなくしたとしても、その時のこれまでの説明は簡単にまとめておくから安心してね。」
「ご丁寧にどうも。」
神「よし…、じゃあ気をつけてね。
あ、お土産はいらないよ。」
「プフッ。
誰が神様の為に買ってくるかっての。
……ま、覚えていたらね。」
神「あははっ。
…じゃあ、そろそろ始めるよ。
準備はいいかい?」
「勿論!」
神「じゃあ……、始めるよ。」
そう言った次の瞬間、あたしの周りに突如見たこともない文字が表れ、ぐるぐると回り始めた。
「な、何…これ……!」
次々と表れてくる文字や図形に混乱する。
…本当にこれで平気なのかな?ちょっと不安になってきたんだけど……。


神「時を測り時を開き
あまねく全ての時空の欠片よ
その輝きと聖なる力をもって


我等に示せ」


更に文字や図形と一緒に様々な色をした丸い光が、同様にあたしの周りを囲うように回り始める。
不安感はほんの少しあったけど、それが嫌だとは思わなかった。怖いとも思わなかった。
むしろ、どこか心地良いと思った。


神「時空の欠片たちよ
我は時の観察者
時詠みは完全なり
全ての次元を正す為


その時空を解放せよ」


淡い光があたしの体を包んだ。


そこであたしの記憶は途切れた。
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