書物その3

□成功の失敗
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神様目線


さて……これで彼女の転生は成功したわけだ。
これで問題は1つ解決したわけだ。
けれど、問題はまだ幾つか残っている。
彼女の転生は成功したものの、それが全て成功するかどうかは僕自身それは分からない。


ただ、賭けてみたくなった。
彼女の転生は本当に成功するのか。
なんの問題も起こらずに出来るのか。



……ま、彼女のことだから何とかなるだろう。
今は、空間に出来た亀裂と歪みを何とかしなければいけない。


……でもその前に。



「さて……彼女の元へ行くのは誰かな。」


実は1つ、僕は彼女に嘘をついていた。
「転生後の夕鈴ちゃんの元に、1人生きていた時の仲間を送る」ということだ。

そもそも僕はそんなことはしない。
送る気は、ない。
それ以前に出来ない。


何故なら、彼女が最期にそう願った思いは既に届いているのだから。
彼女は忘れているのかもしれないけど、逢いたいという人物は既に決まっている。

……彼女の思いが、その人物と来世で逢いたいと願った人物を呼んでいるから。
僕がどうこう出来るものではない。
ただ僕は、彼女のその思いを叶える為の手助けをしたにすぎない。


………と言っても、僕にはその相手が一体誰なのかは分からないけど。
幾つか候補は上がる、でもその中の誰かというのはまだ分からない。
彼女の呼ぶ相手が誰なのかを知るのも僕の仕事の内だ。

僕は雲の縁まで歩み寄り、座った。
そしてそこから少し前に上半身だけを前かがみにして、人間界(げかい)を覗き込むように見た。



…………………。


ま、すぐ彼女が転生したからと言って……。
そんな早く彼女の元へ行くわけないか。
さてと、気長に待とうとするかな。


そう思い、立ち上がってそこから背を向けて2、3歩進み出した時だった。


神「………!」

突然、人間界(げかい)の方から柔らかな光の気配を感じた。
さっきいた場所に戻り、人間界(げかい)を見る。



神「ふーん……行くのはあの陣営の人、かぁ……。
………ていうことは…、彼女が呼んだのは………………。

















「彼」…ってことか………。」


まぁ、薄々そうだろうとは思っていたんだけどね。
ただ、こんなに早く呼ばれるなんて思っていなかったから、ちょっと驚いただけなんだけど。


………彼、かぁ………。
そりゃそっか。
一番親交が深かったのも彼だし、彼女の最期に話した相手も彼だったもんね。
うん、納得納得。
胸の中でそう呟いて頷いた。


その時だった。


神「……………あれ?」


おかしい。
夕鈴ちゃんの気配が弱まっている。
それとはまた別に、夕鈴ちゃんとそっくりな気配の方が強まっている。



……どうやら無事転生出来たらしい。
………でもこの違和感は一体……?



神「………もしかして………ねぇ……。」







「転生には成功したけど……夕鈴ちゃんの記憶が忘れられていってる」………なんてことはない…………よね………?





神「………こーりゃ随分大変なことになっちゃったねぇ、夕鈴ちゃん…。


でも…それはそれで面白そうだから僕は別に構わないんだけどね。」


あとで確かめに行ってみようか。






…………………転生祝いと称して、ね。


僕はこれから起こることを想像して、密かに笑った。


………彼女の世界で、月日が足早に過ぎていくのを感じながら。
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