書物その3

□成功の失敗
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「………んぅ?」

再び目が覚めると、あたしは不思議な空間にいた。
水の中の空間…?
冷たい水の中にいる筈なのに、暖かく感じる。
そして、不思議なことはもう一つあった。


「何だろう、ここ……。
………え、普通に話せる?
水の中なのに何で呼吸が出来るんだろ………。」



そう。
水の中にいる感覚なのに、目も開けられるし、こうして普通に話せることだ。


「……あ、普通に歩ける。」


……ちょっと楽しいかも。

?「あ、いたいたー!
いやーようやく見つけたよー。
あー良かった。」

そう言ってあたしの方へ走ってくるのは……。



……神様だった。

神「どうだい?
転生した感想は?
…と言っても、まだ完全に転生できたわけじゃないけどね。」
「ここは……?」
神「ここは命の原点となる場所。
ここで生命が誕生して、やがて死んで、そして転生するものは転生するんだよ。
まぁ、大体の生命は死んで終わっちゃうんだけどね。
ほんの一握りの生命だけが転生するんだ。」
「へー…。
……………それにしても、ここは何か暖かいんだけど……。
こう…、真夏の気温で冷たい川の水がすごいぬるく感じるっていうあれと一緒みたい……。」
神「ま、そうだね。
僕もこれを例えるのは少し難しいけど……。
強いて言えば海、かな。」
「海?」
神「そ、海。
全ての命の源は海だと考えてもおかしくはないよ。」
「何で?」
神「どんな生物も、海……つまり、水は本能的に欠かせないものなんだよ。
水が無くなれば草木は枯れて、やがてそれは全ての生命に影響を及ぼす」
「まぁ……、そうだよね。
水がなかったら草木はいずれ枯れるし。
あたし達も飲むし……。」
神「じゃあ、仮に水がなくなって草木が全て枯れたら……どうなる?」
「それを食べる生物が死ぬ。
そしてやがて絶滅する。……あ!」
神「もう聞かなくても分かるよね?
どうなると思う?」
「それを食べる生物が死ぬ……。
それが進んだらその生物が絶滅する…。」
神「ご名答〜!
ほら、言った通りだろ?
命の原点は、何事も水が関係してるんだよ。
まぁ、水以外にも必要なものはあるけどね。」
「ふーん……。
……にしても神様さえここの説明が難しいなんて……、ちょっと意外だったなぁ………。」
神「おや、そうかい?」
「うん。
何でも知ってる、全知全能の者なのかなーって思ってた。」
神「確かに僕はこの世の全ての知識もあれし、天界の知識も必要とされているものは全て頭の中にあるよ。
けどね、夕鈴ちゃん。
僕にだって分からないことはあるんだ。
この場所の原理や……人の無限の可能性とかね。」
「……ちょっと待って。
この場所の原理が分からないってことは…………。


…………結局ここのことは何も知らないってことじゃん!」
神「まぁ、そういうことだね。
……でも、少しだけなら分かることはあるよ。」
「……何?」
神「ここは生命が誕生して、転生するものは転生して、そしてやがて死ぬということ。
ここはあらゆる原点に等しいところだということ。


そしてどの神もこの場所を知っているのに、ここのことをよく知らないということ。
誰が、いつ、一体何の目的で出来たのか分からないということ……。」




「……この場所を知らず夢の地を目指し、夢の地に着いてこの場所を知らず…か………。」
神「誰の言葉?」
「……………忘れた。」
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