アオハルデイズ
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「ごめんね葵ちゃん、外に出てこさせちゃって」
「ううん。誰かがいてくれれば平気だから。…話って何?」
葵はさっそく本題に切り込む。
ニコニコと笑っていた黄瀬の顔が真顔になった。
いつものように、葵の隣へ座り込む。
「葵ちゃんは…強いっスね」
そしておもむろに口を開いた。
葵は当然、え?と首をかしげる。
「俺が辛かったとき、葵ちゃんは俺の側にいて、慰めてくれた」
「……IHのこと?」
「うん。けど葵ちゃんは辛くても、誰にも言うことなく耐えてる」
「まぁ…あたしなんてそうそう辛いことなんかないし。昨日は特別」
いつもの明るい黄瀬じゃない。
笑って答えながらも、葵はそれを肌で感じ取った。
自分の目を真っ直ぐに見つめてきたその目も、いつになく真剣だ。
「俺じゃ…頼りにならない?」
「そんなことないよ」
「けど俺、葵ちゃんに頼りにされたこと一回もない。俺だってもっと葵ちゃんの役に立ちたいって思ってんのに。昨日だって…」
「その気持ちだけで十分だから」
「俺が十分じゃねぇ!」
途端に黄瀬が声を荒げた。
葵は困惑したように、黄瀬の目を交互に見返す。
「ちょっと人に頼るくらい、何でダメなんスかっ。俺が彼氏じゃないから?そんなの俺が助けられてばっかりじゃん。それとも、葵ちゃんが辛いこと吐き出すのが俺にとって迷惑になると思ってる?バスケの邪魔になるって」
「……」
「そんなの大間違いっスよ!何も言われずにいた方が迷惑…ってか心配になるに決まってんじゃないっスか!」
黄瀬の言わんとしていることは分かった。
その上で葵は彼の目を見ることができずに視線を落とす。
「もし邪魔になると思ってるなら、それは間違いだからもう一度言わせて欲しい。俺と付き合って。俺にはっ何でも言ってくれていいから…!」
「…だから言ったでしょ、それだけじゃない。一緒に帰れないのが嫌だって…」
「ほんとに、それだけ?」
「……デートもできないし」
「それが本当の理由?…違うんスよね。葵ちゃんは、そんなワガママなんかじゃない」
「……」
「隠さないでよ…頼むから」
「…――っ」
葵は右手で、自分の口元を覆った。
吹きぬけた風が葉を揺らし、サラサラと音を立てる。
その音に混じって、嗚咽ともとれる短い吐息が葵から漏れた。
黄瀬には、すべて見抜かれている。
これ以上は、限界だった。