恋模様

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「あ、そうだ桃ちゃん、今日の部活なんだけど、私買い出しに行きたいから、他の事お願いしていい?」

「えー買い出しなら私も行くよ!重くなったら大変だし」

「重いのは大丈夫だよー毎日鞄二個持ってるもん。…でもついてきてくれるなら一緒に行きたいな」

「うん、行こう行こう」


よっしゃー桃ちゃんと放課後デートだ。
今からウキウキ☆と思ってたら、


「違うでしょあんたらー!」

「!?」「わぁっ」


後ろからタックルアンド首ホールド。
私と桃ちゃんの間に入って、二人の首をがっしり絞めてきたのは和泉ちゃんだ。
桃ちゃんと揃って目をパチパチさせると、和泉ちゃんはもう!とイライラした様子。


「あんたら話すことは部活の事ばかりか!」

「え、そんなことは…ねぇ桃ちゃん」

「う、うん」

「ちったぁ恋の話はないのか!あんたら二人とも幼馴染を持っておいて!」


幼馴染がいれば恋の話をするのか?
残念だけど、私は夏のあの日から恋とは縁が切れてしまっているのだが。


「幼馴染ラブ…少女漫画の鉄則でしょう!急に姿を消した幼馴染…事件だ事件だって言って一向に姿を見せない彼の帰りを健気に待つヒロイン…!」

「和泉ちゃん、それ少年漫画」

「やっと会えたと思ったらすぐまた事件に飛んでゆき…でも実は彼は姿を変えてヒロインの側に…!」

「和泉ちゃん、この世界にアポトキシン4869は存在しないから」


和泉ちゃんの熱烈な感情がこもった語り口に、私は静かにつっこんだ。
すると演技を終えた和泉ちゃんがはぁーっと長めの息を吐く。


「もーあんたら無頓着すぎ。なんかないの?ほら、好きな人の一人や二人、てかどうなのよ葵、赤司君とは」

「赤司君にはあだ名呼びを拒否され、荷物持ちをさせられ、パシりをさせられ、今や妙な主従関係のようなものができつつあります」

「ほら!それ!そこから来るんだよ!」


ないない。
熱いな和泉ちゃんは。


「さつき、あんた黙ってるけどないの?青峰君は?」

「え!?えぇーと…私は、そんな…」


…おや?おやおや?
桃ちゃんが動揺してるよ?目が泳いでる。
まさか…あったのか幼馴染ラブ!


「桃ちゃん…もしかして青峰君の事…?」

「いやぁない!ないない!それは絶対にない!」

「じゃあ誰!?」

「だ…誰でもないよぅ!」


桃ちゃんはひた隠しにして口を割らない。
和泉ちゃんの猛烈プレッシャーにもひたすら首を横に振る。

いやでもわかる。恋愛から遠ざかった私でもわかる。
あの目…恋する乙女の顔だ…!


「話しなさいこのさつき!」

「だから、本当にそんなんじゃないってば!」

「和泉ちゃん…ここ廊下だよ…」


和泉ちゃんがまた桃ちゃんをつかんで離さない。
オラオラって絡みながら歩いてるものだから、暴れた和泉ちゃんの腕に弾き飛ばされた私は、

――ドカッ

案の定、誰かにぶつかってしまった。
とっさに謝ろうとぶつかった相手を見上げて、


「あ……」


私の顔から一気に血の気が引いた。

 
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