恋模様
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あー…ヤバい。
やってしまった。
またやってしまった。
頭にきてつい…。
せっかく悪い空気切れかけたのに、自分がまたその空気作っちゃってどうするよ。
「えー…とですねぇ…、だからつまり、その…」
私は完全に言葉を濁らせた。
気が付けばびみょーな静けさが体育館を覆っている。これはマズイ。
ところが、その静けさを破ったのは、ぷっと吹き出す灰崎君の笑い声だった。
「ぷはっ…私が嫌なんだって、ワガママかよお前」
灰崎君はそう言って、肩を震わせる。
「わ…わがままで悪かったですねぇ」
私はもうどうしようもできなくて、視線を横へ泳がせた。
「ははっ、まーいーや。俺今日はもうあがるし。せーぜー頑張れよー涼太」
灰崎君はひらひらと後ろ手を振って、体育館を出ていく。
また体育館の空気が緩くなるのを感じて、私も短く息を吐いた。
そこへ、
「…はぁーありがとう葵ちゃん。助かったよぉ」
桃ちゃんが胸をなでおろしながら私の横へやってきた。
あの二人の諍いには、桃ちゃんも頭を抱えているようだ。
「さすがだね。葵ちゃんが来るだけで、張ってた空気が和らぐんだもん」
「結局張りなおしましたがね、私が」
「ううん、でも葵ちゃんが体育館に来た時、それだけでみんなの雰囲気が一度戻ったでしょ?私には無理だなぁそんなの」
「ん……んぬぅ…」
ごめんね桃ちゃん、不気味な返事しかできなくて。
私って滅多に称賛の声を浴びることなんてないから、正直褒められ慣れてないんです。
どっちかっていうとけなされるキャラです。
だからこんな時、反応に困って仕方がない。
桃ちゃんは口ごもる私をニコッと笑って、自分の仕事へ戻っていった。