恋模様

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「桃ちゃん、これ、監督に渡しておいてくれない?」

「うん、いいよ」


監督に言われていた資料を桃ちゃんに預ける。
桃ちゃんは笑顔で受け取りながら、でも同時に、すぐ視線を落として、受け取った資料をギュッと抱えた。


「……ねぇ、葵ちゃん」

「ん?」

「………」


言いたいけど、言葉にできない。
そんな桃ちゃんの様子を見て、なんとなく察することはできた。
多分、私も桃ちゃんと同じようなこと思ってると思う。


「大丈夫だよ、桃ちゃん」


根拠もない、ただの慰めにしかならない言葉だけど。
今の私には、そんな言葉をかけることしかできなかった。

桃ちゃんは顔を上げて、「そうだね、ありがとう」と、哀しさを滲ませながら微笑んだ。




なんだろう。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
あんなこと桃ちゃんに言う資格、私にあったのかな。

『大丈夫だよ』

ひどく空っぽの言葉だった。
大丈夫だなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
だってもう、みんなと、ほとんど会話すらないんだもん。

黄瀬君は好意的だと思ってたんだけどな。
彼ですらすっかり会話が減っちゃった。
教室で部活のことを話しかけてもはぐらかされるし。
そんなことが二度三度続けば、そりゃあ話しにくくもなる。

三学期の席替えで完全に席も離れたし、部活以外で会話をする人って言ったら、赤司君だけ。
その赤司君も……一緒にいても、別のところにいるみたい。


赤司君の言ってることは、間違ってない。
けど…納得もできなくて。
かと言って、説得なんてできないし。


そうやって悶々としたまま、時間だけが過ぎていった。




 
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