恋模様

□15
1ページ/5ページ


今日は朝から、どうも調子が悪かった。

不幸が続くとかではなくて、単純に体調が悪かった。
朝は少し頭痛がする程度だと思ってたんだけど、時間が過ぎるごとに酷くなっている気がした。
部活が始まるころには、体がダルくて仕方がなかった。


「葵ちゃん、大丈夫?」

「んー…どうも今日はボーっとしちゃって」

「無理しないで、キャプテンに言って今日はもう帰ったほうがいいんじゃない?」

「んー…大丈夫」


来たはいいけど、やっぱり頭がボヤーッとする。
桃ちゃんの心配そうな顔が霞みそうだ。
こんな美少女が私のことを心配してくれてるなんて、羨ましかろう男どもよ。


「ありがと桃ちゃん、一軍の方行ってきて?」

「でも…」

「へーき」


って笑ってみせるけど、気分がすぐれないことには変わりがないので、体育館の隅で練習を見守らせてもらう。


「……。朝比奈が美人に見える」

「あぁ、見える」

「黙って大人しくしてりゃ可愛いもんなんだな」

「だな」


改めて私の残念さを実感した男子だったらしい。
髪おろしてるから余計にとか。
やかましいわ。
頭痛くて縛ってられないんだよ。

あーダルーい。


「朝比奈―!」

「あ、はい!」


とばかりも言ってられない。
参加している以上、呼ばれたら向かわねば。

とっさに立ち上がった瞬間だった。


「っ…」


一瞬目の前が真っ白になる。
ほぼ同時に視界がぐにゃりと歪んで、バランス感覚のなくなった私の体はフワリと後ろへ傾き始めた。
脳からの指令が行き渡らなくて、手も足も動かない。

あ、倒れる。
そう思った。

――どさっ

「!」


倒れなかった。
何かに当たったと言うか支えられた感じで、どこもぶつかることなく、痛みを感じることもなく、ゆっくりとその場に座り込む。
支えてくれたであろう背中に密着している人物を見上げた。


「…呆れたな」

「あー…」


文字通り、呆れた顔で私を見下ろすのは赤司君だ。


「桃井に聞いて来てみれば…体調管理もできないのかマネージャーのくせに」

「…みたいです。ごめんなさい、フラフラします」


赤司君は左腕で私の肩を支えながら、右手を首元に触れさせて「熱い」と短く行った。
赤司君の手だって熱いと思う。
なんて言う気力がなかった。

さっきまでなんとかハッキリしていた意識が、一気に薄らぐのを感じる。
多分赤司君が来てくれたからだ。
手の温度からして、練習を中断してきてくれたであろう彼に対して申し訳ないけど、私は安心してしまっている。
赤司君が来てくれて。


「大丈夫か朝比奈!保健室に…」

「いや、僕がこのまま送ろう」


心配して寄って来てくれた部員に対して、赤司君は冷静に対応する。


「保健室にいても、親はすぐに迎えに来てもらえないだろう?」

「うん…」

「家だって留守だ。僕が付き添う。葵、迎えを呼ぶから少し待っていろ」

「…はい」


あぁ、赤司君、練習途中なのに。
だめなマネージャーだよほんと。

離れて行った赤司君は、コーチとキャプテンに報告に行って、迎えを呼んで、私をやすやすと抱え上げると、車に乗せてくれた。
うすーい意識の中で、いつのまにか、赤司君がすっかり男の子の体になってしまったんだなと、そんなことを考えたのを覚えてる。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ