恋模様
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一軍の体育館の扉を開けたら、なんだかちょっと物々しい雰囲気。
言い争ってる声も聞こえる。
灰崎君と黄瀬君だ。またかこの二人。
どうせまた灰崎君が黄瀬君にちょっかい出したんだろう。
それが少し激化した感じかな今日は。
この空気をいったん切ろうと思って、わざと大きな音を開けて扉を開けきる。
すると過半数の視線がこちらに集まって、何人かはそのままばらけていった。
空気を切ることに成功したらしい。
それでも当事者の二人は睨み合ったままなので、諌めようとその間にそっと割り込んだ。
「ちょっとー、また喧嘩?」
「あ?んだよ朝比奈」
灰崎君が舌打ちを交えながら私を見下ろしてくる。
黄瀬君も同じくだけど、眉間にしわが寄ったまま。
「黄瀬君、そんな怖い顔じゃカメラ向けてもらえなくなるよ?」
「葵っちは引っ込んでてほしいっス」
なんだとコノヤロウ。
二人の諍いは珍しいことじゃない。
主将も今のところは何も言わないけど、部員からしてみれば勘弁してほしいんだよねこの雰囲気。
「二人ともそれ以上するなら体育館から出てってよ」
「つーかお前に関係ねーし。だいたい三軍だろお前」
うわ出た一軍様の上から目線。灰崎コノヤロウ。
ムカつくー諍いをおさめようとしてるだけじゃん。
そう思ったら、思わず声に力が入ってしまった。
「三軍だからだよ!」
「は?」
灰崎君は相変わらず見下し顔で片眉をあげる。
全くわかっちゃいない。
私は短くため息をつきながら、腰に手を当てて強く彼を見返した。
「あのねぇ、一軍の雰囲気って言うのは、部全体の雰囲気につながるの。それだけレギュラー陣の影響力ってのは大きいの。うちのバスケ部背負ってる人間なんだから」
「だから?」
「だから一軍の雰囲気が悪くなると、こっちまで気まずい雰囲気になるのっ」
「知ったこっちゃねーよそんなこと」
「じゃあ今知れ!部活動にある程度緊張感は大切だけど、悪いピリピリした空気なんて良ろしくない。そんな雰囲気をこっちに持ち込ませないでよ」
「つーか何で朝比奈がそんな怒るんだよ。誰かが迷惑だとか言ってるってのか?」
「口には誰も出してないけど…」
「んじゃあ誰も気にしてねーってことじゃん?なら…」
「私が嫌なんだ文句あるか!?」
誰かが言わなきゃ納得してくれないってんなら、私が言ってやろーじゃないの。
語気を強めてすごむ私に、灰崎君は目を丸くした。
私がこんな風に人を睨みつける姿なんて見たことないからだろう。
一方、こんな私を一度目撃している黄瀬君は、すっかり大人しくなっている模様。
気が付けば、周りのみんなもそんな感じ。
「………」