恋模様
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最近は、色んなことがめまぐるしく起こった。
灰崎君が部活をやめたり、虹村先輩が主将をやめたり。
私はただ、少し離れたところから見ていただけだった。
そんなことしかできなかった。
何だか少し…虚無感。
みたいなものにさいなまれる。
「葵ちゃん、なんか元気なくない?また体調でも悪いの?」
桃ちゃんに顔を覗き込まれた。
心配をかけてしまうなんて、こりゃいかん。
私はすぐさま首を横に振った。
「ごめんごめん、大丈夫」
「ならいいけど…」
無理しないでねって、桃ちゃんは優しい言葉をかけてくれた。
ちょっとボーっとしてしまったのは、虹村先輩のことを思い出したからだろう。
最近はいつもこの調子だ。
先輩が主将をやめて、赤司君がそれを引き継ぐって発表があった時、以前
『朝比奈、一軍に来るか?』
そう言われた日のことを思い出した。
赤司君の主将に不満があるわけじゃない。
けど、どうしてもスッキリしなくて、帰り際虹村先輩を追いかけた。
『先輩…どうしてですか?』
まだ全中は終わってないのに。
私が問いかけると虹村先輩は、微笑みながらも真剣な顔で答えてくれた。
『コーチにも話したが…俺の父が入院してる。いつどうなってもおかしくない。もし大会と父の容体の変化がかぶったら、俺は父親を優先する』
『……!』
淡々と話す先輩からは、それだけ揺らぎがないんだって伝わってきた。
もう覚悟をもって、決めてるんだって。
でも…
『…んな顔すんなよ。別に部活辞めるわけじゃねーんだから』
『そ…そうです、けどぉ…』
『朝比奈なら一番分かってくれると思ったんだけどな。親…母さんが大事だって言った、お前なら』
『!』
…うん。わかる。わかりますよ。全部じゃないけど、わかる気がする。
私にとっては、たった一人の家族だもん。
その一人が、先輩のお父さんと同じようなことになったら…私なら部活すら辞めてると思う。
けど、だからこそ、先輩ずっと苦しんでたのかなとか…そんなこと思うと…。
『先輩…辛く、ないですか?』
『?』
『一人で…抱えてたんですか?』
『朝比奈…』
なんだか涙が出そうになって、声が震える。
『たく…お前に心配される筋合いねーっつの』
『っ…』
『…ま、心遣いは感謝するがな。けどそう言う心配ホントいらねーから』
『先輩…』
『赤司のこと、支えてやってくれよ』
先輩はそう言って、私の頭をクシャっとなでた。