恋模様

□21
1ページ/6ページ


最近は、色んなことがめまぐるしく起こった。
灰崎君が部活をやめたり、虹村先輩が主将をやめたり。

私はただ、少し離れたところから見ていただけだった。
そんなことしかできなかった。

何だか少し…虚無感。
みたいなものにさいなまれる。


「葵ちゃん、なんか元気なくない?また体調でも悪いの?」


桃ちゃんに顔を覗き込まれた。
心配をかけてしまうなんて、こりゃいかん。
私はすぐさま首を横に振った。


「ごめんごめん、大丈夫」

「ならいいけど…」


無理しないでねって、桃ちゃんは優しい言葉をかけてくれた。
ちょっとボーっとしてしまったのは、虹村先輩のことを思い出したからだろう。
最近はいつもこの調子だ。
先輩が主将をやめて、赤司君がそれを引き継ぐって発表があった時、以前

『朝比奈、一軍に来るか?』

そう言われた日のことを思い出した。

赤司君の主将に不満があるわけじゃない。
けど、どうしてもスッキリしなくて、帰り際虹村先輩を追いかけた。


『先輩…どうしてですか?』


まだ全中は終わってないのに。
私が問いかけると虹村先輩は、微笑みながらも真剣な顔で答えてくれた。


『コーチにも話したが…俺の父が入院してる。いつどうなってもおかしくない。もし大会と父の容体の変化がかぶったら、俺は父親を優先する』

『……!』


淡々と話す先輩からは、それだけ揺らぎがないんだって伝わってきた。
もう覚悟をもって、決めてるんだって。
でも…


『…んな顔すんなよ。別に部活辞めるわけじゃねーんだから』

『そ…そうです、けどぉ…』

『朝比奈なら一番分かってくれると思ったんだけどな。親…母さんが大事だって言った、お前なら』

『!』


…うん。わかる。わかりますよ。全部じゃないけど、わかる気がする。
私にとっては、たった一人の家族だもん。
その一人が、先輩のお父さんと同じようなことになったら…私なら部活すら辞めてると思う。
けど、だからこそ、先輩ずっと苦しんでたのかなとか…そんなこと思うと…。


『先輩…辛く、ないですか?』

『?』

『一人で…抱えてたんですか?』

『朝比奈…』


なんだか涙が出そうになって、声が震える。


『たく…お前に心配される筋合いねーっつの』

『っ…』

『…ま、心遣いは感謝するがな。けどそう言う心配ホントいらねーから』

『先輩…』

『赤司のこと、支えてやってくれよ』


先輩はそう言って、私の頭をクシャっとなでた。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ