恋模様
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「俺、レイアップがどーも上手くできないんですよ」
一年生の後輩部員がそう言うので、私はボールを受け取って、
「テンポよくさ、右っ左ひょいっ。…こんな感じ」
ひとつシュートを決めて見せた。
コツを言いながらお手本を見せたつもりだったけど、後輩からは怪訝な顔。
「先輩、それよくわかりません」
「だから、とんとーんで、ボールはふわっと」
「もう少し具体的というかわかりやすく言ってもらえません?」
「三拍子!」
「だからー先輩、」
「葵は自然と出来てしまうタイプだから、言葉での説明はいらないんだよ。だからそれが苦手」
ゴール下で話していた私たちのところに、横から声が。
この声は赤司君。
その姿を捉えた途端、後輩の背筋がピンと伸びた。
「葵、ボール」
「、はい」
ボールを受け取った赤司君は、「やってみせて」と後輩にボールを回す。
受け取った後輩はやけに緊張した面持ちで、レイアップをしてみせた。
外れてしまったこのシュートに、赤司君が全く無駄のない分かりやすいアドバイスをして、後輩は目を輝かせた。
「ありがとうございます!朝比奈先輩よりずっとわかりやすいです!」
「反復練習を忘れないように」
「はい!」
赤司君からアドバイスが貰えるなんて、この子ラッキーだわね。
てか、そりゃ赤司君と比べられたら対象となる人物は霞んで見えるさ。
と、さりげなく後輩に小バカにされたことを恨んでみたところで、私は赤司君に目を向ける。
「赤司君、何か用があってきたんじゃないの?」
三軍の体育館にわざわざ顔を出したんだから。
すると赤司君は、スッと私の前に手を差し出してきた。
私は意図を掴めなくて、ただ眉を上げる。
「…ん?」
「この間言っていた相手校の資料。取りに来た」
「え…あれかぁ!ごめん、今は持ってない。後で届けに行くよ」
「そう」
「て言うか、普通に持っていくのに。わざわざ来てもらわなくても。もしかして急ぎだった?」
「いや、そんなことはない」
「そか、ならよかった。でも珍しいね?急ぎの用でもないのに赤司君から出向くなんて」
「そう?いいだろう別に。ついでに顔を見るくらい」
「はぁー…さすがキャプテン。後輩の様子も気にしてくれてるんだねぇ」
「………まぁね」
いやさすが赤司君。
おかげでこの後輩がひとつ上達しそうだよありがとう。
とここで、私たちの会話を横でじっと聞いていた後輩が不意に口を開いた。
「…朝比奈先輩は、赤司先輩と付き合ってるんですよね?」
「へ?」
体育館に、少し大きめの、間の抜けた私の声が響く。
それは一体何の話でしょう。