恋模様
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きちんと向き合って言葉を交わすのは、中学二年生の、あの時以来。
もう一年以上まともに話していなかったなんて、なんだか信じられない。
姿も、声も、全部久しぶりなのに、それを感じさせないくらい、自然。
「…どうしたの?前髪。ちんちくりんだよ?」
出てくる言葉も、そんな感じ。
「葵は…切ったんだな」
「うん。これでも伸びた方」
切ったばかりのころと比べれば、もう肩につくくらい伸びてきた髪。
私の目の前にやってきた赤司君は、短いって言いながら、私の髪を手ですくう。
「…赤司君はさぁ、昔から私のいる場所がわかるみたいだったよね」
「?」
「私のいるところに、いつも不意に現れるの。良い時も悪い時も。なんでそんなにわかるの?」
「わかるさ。葵のことだから」
赤司君は当然のことのように言いながら、私の髪に指を通す。
私がそれを手で止めると、今度はその手がそっと握られた。
男の子の大きな手だ。
そう実感した途端、離れていた一年と九か月が一気に押し寄せてきて、喉の奥が熱くなって、一瞬息を詰まらせた。
赤司君は私の手を握ったまま、静かに口を開く。
「他のみんなには会ったのか?」
「ううん、試合は見たけど、顔は合わせてない」
「なぜ会っていかない。敦に会える機会なんて、今くらいしかないよ」
「……うん」
赤司君の顔が近付いてきて、オデコとオデコがこつんと合わさる。
手を握られた瞬間から、胸の鼓動が止まらない。
私の中で、とめどなく何かが溢れてくるの。
あぁ
これ以上はもうダメだ
そう思った。
「あのね赤司君、まだ誰にも言ってないことなんだけどね、」
だから早く、伝えてしまおう。
「みんなに会えるの…多分、今日で最後なの」
「…?」
「私…引っ越すの」
「…引っ越す?」
「うん。広島に行くの」
「…!?」
「お母さんが、再婚するんだ」
テツ君に会ったあの日の夜、母に告げられたこと。
そのすべてを、赤司君に話した。