恋模様

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広島に行くと決心して、早一カ月が過ぎた。
何度か揺らぐこともあったけど、意志が変わることはなかった。

となってくると、それはそれで悩みも出てくるわけで。
学校にはもう報告を済ませたから、クラスメートに知られるのも時間の問題。
そうなる前に、きちんと自分の口から伝えなきゃいけない。
でもそれがなかなかできなくて、気が付けばもう二月。


今日はアルバイトが休みの日。
学校が終わって、家に帰って、母と夕食を済ませて、テレビを見ながら一服の時間。
自分の中でずっと懸案になっていることを、ここで思い切って母に告げた。


「…美和子さん、実はひとつ問題があるんだけど」

「なに?」

「彼氏いるんだよね、私」


お母さんが読んでいた新聞からスッと視線を上げる。
母は無表情な視線を私に投げた後、またすぐに新聞に向き直った。


「言っとくけど、母さんはもう行く気満々だからね。悪いけど前回みたいなセリフはもう出てこないからね、娘からゴーを貰ったからには」

「私だってやっぱり待って下さいなんて言わないよ!…けどやっぱさぁ、」

「なによ遠恋くらい。乗り越えなさい」

「だって広島だよ?東京と広島だよ?大人じゃないんだからさぁ、交通費出してくれるわけ?お母さん」

「あぁ、そのことだけど」

「ん?」

「行き先、京都に変更になったから」

「…………。……へ?」


寝耳に水。
とはまさにこのこと。
私はただ目を丸くして、淡々と告げる母の顔を見返した。


「急に転勤先が変わったんですって、京都に変更。彼はもう行ってる。四月入る前に編入試験受けに行くから、勉強しときなさいよ」

「ちょ……とごめん、え、待って、そうなんだ近くなったね。じゃなくて…どこの高校?もう決まってんの?私の意見とかないの?」

「だって征十郎君と同じ高校よぉ、問題ないでしょ?新居からも一番近いし、好条件だと思うわよ」


開いた口が塞がらない。
色々と言いたいことがありすぎて、まとまらなくて、言葉になって出てこない。
そのうち頭が混乱してきて、あぁ…


京都って…偶然?
いやいくらなんでもそれはないでしょ。
でも彼ならあり得る?

いやいやいや…


「…あのさ…お母さん、」

「ん?」

「最近…か少し前とか…、赤司君から、連絡来なかった?」

「あぁ、きたわよ?結婚おめでとうって」

「!!」

「わざわざ本当に律儀よね征十郎君って。話が盛り上がっちゃって、ついでに旦那のことも色々話しちゃった」

「―――……」



まさか…


まさかねぇ…



 
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