アオハルデイズ
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葵と黄瀬が出会ってから、一カ月以上が経った。
肌寒さはなくなり、夏を感じさせる湿っぽい空気が流れ始めていた。
ブレザーやカーディガンを着る生徒はもういない。
男子生徒を中心に、半袖も目立ってきた。
随分と長く顔を出すようになった太陽も、だいぶ傾き始めている。
電気の明かりが目立ち始めたバスケ部体育館には、自主練にまだたくさんの部員が残っていた。
その中で、黄瀬が上がった息を整えようと壁にもたれかかる。
一度深呼吸をして、持っていたボールを籠に向かって放った。
「なんだ黄瀬ーへばったのか」
「いやちょっと休憩っス」
幸男の声に返事をしながら、頭をゴンッと壁につけた。
とその時、壁にもたれかかっていたはずの黄瀬の体が後ろへ倒れ始めた。
体重が後ろにかかっていた黄瀬の体は、重力に逆らえず後ろへと引っぱられていく。
「!!?」
そのまま黄瀬は何かにぶつかりながらドサッと地面に倒れこみ、仰向けの状態。ぎりぎり肘がついたので、頭の衝突は避けられた。
一瞬のことだったので、黄瀬は声すら出なかった。
が、代わりに
「きゃっ!!」
と、誰かの悲鳴。
「…へ??」
何が起こったのかすぐに理解できなかった黄瀬は、パチパチと瞬きを繰り返す。
黄瀬がもたれかかったのは、実は壁ではなく、扉だった。
扉にもたれかかっていたところ、誰かが外側から開けたから倒れたのだ。
本人がその事実に気がつくまで、約三秒。
そして悲鳴が聞こえたことを思い出し、そういえば何かにぶつかった気がする、という事は開けた誰かを巻き添えにしたことに気付き、慌てて起き上がるまで約二秒。
「す、すいませんっ…あれ…葵ちゃん!?」
黄瀬の心臓が弾けとんだ。
真後ろで尻餅をついている女の子は、紛れもなく葵だ。
「ご、ごめん!大丈夫!?」
「う、うん。大丈夫。ごめんね急に扉開けちゃったから…」
「葵ちゃんは悪くないっス!ほんとごめん、立てる?」
葵に怪我をさせたかもしれないという心苦しさと、なんてラッキーなハプニングなんだという二つの感情に胸をドキドキさせながら、黄瀬は葵に手を差し出した。
葵がその手をとろうとしたが、
――ベシッ!!
「いっ」
幸男が黄瀬の手をはたいた事で、葵は伸ばす手を止めた。
「大丈夫か葵?」
「あ、うん」
代わりに幸男が葵の手をとり、体を起こす。
黄瀬は手をさすりながら、痛みとは別から来た涙を流した。
「ありがと幸兄」
「おう。それより、まだ学校にいたのか?」
「うん、図書委員の係りの日だったから。それで幸兄が終わるなら一緒に帰ろうかなーと思って」
「え、葵ちゃん図書委員だったんスか?」
「うん」
葵がこくんと頷く。
黄瀬はそうだったんだと言いながら、心の中であれ?と疑問を抱いた。
よくよく考えれば、自分は葵のことを何も知らない。
(何も知らないのに、なんで好きになったんだろ)