アオハルデイズ

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『好きな人に好かれてる。今は、その事実だけで十分だから』


黄瀬には正直、あの時の葵の言葉の意味がよく分からなかった。
が、今なら分かる。

好きな人が、自分を好きだと想ってくれている。
それだけでこんなにも嬉しい。
なにも付き合いを焦ることはない。

葵にどんなに男が言い寄ろうが、彼女は自分のことを好きなんだと思うと心に余裕ができた。


しかし欲が出てくるのもまた事実。


たまたま、とある朝の廊下でのこと。
バスケ部員が葵に話しかけていた。


「笠松さん、今日はバスケ部来ねーの?」

「うん。別に用ないし…」

「いーじゃん。見学おいでよ」


黄瀬はムッと眉間にしわを寄せながら、ツカツカと二人に近寄った。


「えと…まぁ、用事ができたら寄るね」

「あ、マジで?じゃあ…いて!」


近寄って、男子の頭をどついた。
しかし次の瞬間には、さわやかな笑顔を葵に向けた。


「おはよ、葵ちゃん」

「おはよ」

「いってーなっ、なんだよ黄瀬!」


そして怒りを露わにする部員の首根っこを掴み、無理矢理連れ去った。


「たく…邪魔すんなよなー。せっかく笠松さんと二人で話してたのにー」

「葵ちゃんは、俺のことが好きなんス!」

「はぁ!?」


なんだよそれ!と、何も知らない男子が憤るのも無理のないことなのに、黄瀬は無視。


葵にもっと触れたい。
その気持ちは嫉妬心にも火をつけ、葵が男子と話しているのを見かけるたびに、男子が葵のことを話すたびに、胸がモヤモヤ。眉間にしわが寄った。


「……やっぱ余裕ねーかも…俺…」


教室で、誰にも聞こえないような声で、呟いた。
しかし一息つくと、次の瞬間にはよしっと勢いよく席を立った。

 
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