アオハルデイズ

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夏休み。
海合宿の日はすぐにやってきた。
ベンチ含めたレギュラーメンバー十数名で、民宿に三泊四日。


到着して早速練習のレギュラー陣は、部屋に荷物を置くと早々に外へ出た。
葵も荷物だけ置いて、髪を縛り上げると部屋から出る。

出たところで、後ろから伸びてきた二本の腕が葵の歩みを止めた。
緩く肩を包む両腕が誰のものか、葵にはすぐ予想できた。
見上げてみれば、案の定真上に黄瀬の顔。


「…黄瀬君、練習は?」

「その前に、厳しい練習を耐え切れるよう葵ちゃんからパワーもらってんの」


反抗したかったがちょっと嬉しかった葵は、無言で視線を前に戻した。

多分、こうして黄瀬に抱きつかれていたのはほんの数秒間。
なのに、ずいぶんと長い間そうしていたようだった。
相手の顔が見えなくて、心臓の音だけが大きくなるのを感じた。

――やっぱり黄瀬君のこと好きだ。

こういうことをされると、実感が湧いてしまい恥ずかしくなる。


「……よし、完了っ」


パワー十分っと、黄瀬は腕を放した。
と同時に先輩達から、おい黄瀬ーみんなの葵ちゃんを口説くなー、と睨まれ、黄瀬は慌ててそちらへ駆け出す。


「…あ、葵ちゃん」


しかし一度振り向いた。


「っ何?」

「思ってたんだけど、似合うよねポニーテール」

「え……」

「カワイイ」

「っ…」


最後にウインク飛ばして、黄瀬は練習へ走っていった。

葵の胸は珍しく取り乱していた。
いつもより早くなった鼓動を落ち着かせようと、長く息を吐く。

ここへきて、なんだかちょっと余裕がなくなってきてるかもしれない。
葵はそう感じつつ、頭をぷるぷるっと振って、気持ちを切り替えた。

(仕事しよう)
 
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