アオハルデイズ

□意に反してできた秘め事
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朝、この間新しくしたピアスを耳に黄瀬は登校する。
そして恋と部活が両立するとこうも学校が楽しいとは。と、一人実感。
昇降口で上履きに履き替え、ここで


「黄瀬君おはよ」

「おはよ…あれ!?」


黄瀬は、後ろから聞こえた大好きな声に胸を高鳴らせ振り向くと、眉を上げた。
葵の髪型がいつもと違う。
いつもなら下ろしている髪を、今日は右耳の後ろあたりで一つに結んでいる。


「葵ちゃん髪縛ってる。一瞬誰かと思った」

「今日はちょっと縛ってみたの」

「似合ってる可愛いっ」

「ふふ、ありがとう」


素直に喜んでくれるこの顔が、黄瀬は好きだった。
しかもいつもは隠れているおそろいのピアスが見えるのがまたワクワクする。

葵は、それじゃあまたね、と言って先に教室へ向かって行った。
黄瀬もまたね、と手を振ってから、自分の教室に入る。
毎度のことながら、ここで数人の女子に囲まれた。


「おはよー黄瀬君!」

「おはよーっス」


いつもの光景の中で、早速その中の一人の女子が気付いた。


「あれぇ、黄瀬君、ピアス変えた?」


女子の目ざとさってすごい。
黄瀬は心の中で呟いた。
背の高い黄瀬の耳元に注目して、他の女子も背伸びをしながらホントだーと同調する。


「気付くの早えーっスね。変えたよ」

「へぇーいいねぇ」

「でしょ?彼女とお揃いなんスよー」


黄瀬にとって、何気なく発した言葉だった。
何も深く考えずに言ったことだったのだが。



「「「…え?」」」



一瞬にして辺りが静まり返った。
そして次の瞬間、会話を聞いていた女子達が一斉に黄瀬向かって押し寄せる。


「彼女!?彼女ってどーゆーこと黄瀬君!!いつの間に彼女なんて作ったの!?」

「ずるい抜け駆けなんて!黄瀬君はみんなの黄瀬君なのにー!」

「誰!?相手誰!?同じ学校!?」

「あっ…えーと…」


やばかったかも。
押し寄せた波にのまれながら、黄瀬は冷や汗を流した。

黄瀬としては、葵と付き合ってるって、自慢したい。
したいが、今ここで葵の名前を出したら、とても危険な気がする。
この女子の勢いなら葵のクラスに押し寄せていくに違いない。
この尋常じゃない群がり方、今までも女子に囲まれたことは何度もあるが、これは怖すぎる。


「ねぇ、誰!?」

「えー…と……ナイショっス」


黄瀬は不自然なほどの苦笑いで言った。
同時に、授業開始のチャイムが鳴り響いた。

先生が教室に入ってきたこともありひとまず切り抜けはしたものの、以前黄瀬は葵のことを
特別だから。
と言って教室から連れ去ったことがある。

勘付かれたらマズイ。しかも思い返せば、今朝の葵は髪をひとくくりにしてピアスが露出していた。

かと言って今葵に近づいても返って怪しまれる。
黄瀬はなんとか女子をかわしながら、昼休みになると弁当を持って一目散に教室から出て裏庭へ向かった。
まだ話が聞き足りない女子に捕まる前に、ダッシュで。

 
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