アオハルデイズ
□お買い物
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ショッピングモールで、葵は一人頭を悩ませていた。
白いブラウスに、黒の七部丈パンツ。三つ編みおさげに黒縁ダテ眼鏡というナンパ避け用の地味な出で立ちで、噴水広場の椅子に腰を下ろして一息ついた。
さっき買ったジュースに口をつけながら、何気なく辺りを見回す。
休日だけあって人が多い。広場のテーブルや椅子はほとんどが埋め尽くされている。
そんな中、一人の影が葵の目に留まった。
頭一つ飛びぬけている彼の髪は緑光りしている。
その向かいに座っている人の顔。見覚えがあった。
葵はピンっとひらめくと、すぐさまその席に近付いた。
「こんにちわ」
眼鏡を外し、席の横に立って声をかける。
突然話しかけられた二人は何事かと、声の主を振り返った。
「あれ…誰かと思ったら、笠松さんの妹ちゃんじゃんっ」
葵が話しかけたのは、高尾と緑間だった。先に反応したのはもちろん高尾。
顔見知り程度だった葵はどんな反応をされるか正直不安だったが、誰ですか?状態にならなかったことに少し安心して笑いかけた。
「よかった。覚えててくれたんだ」
「そりゃもー。今日は黄瀬一緒じゃねーの?」
「うん。黄瀬君は練習。高尾君と緑間君は、忙しいの?」
「いやー俺らもブラブラしてただけ。ねー真ちゃん?」
「俺は目的もなくブラブラなどしていないのだよ」
緑間はふんっと鼻を鳴らす。
意外な人物から声をかけられたと内心驚いていた高尾だが、何度か言葉を交わした後、
「なーなー、聞いてみたかったんだけどさ、何で黄瀬と付き合ってんの?」
「へ?」
突然の質問に、葵はきょとんと高尾を見つめる。
高尾は気になってたんだーと続けた。
「いや、だって前の様子見てるとあんま仲良さそうには見えないし、むしろ黒子の方がお似合いじゃん?めっちゃ盛り上がってさ」
「あぁ…あれはたまたまだよぉ」
なんだそんなことかと、葵は肩の力を抜く。
「確かに黄瀬君と本の話題で盛り上がれたら楽しいだろうけど…別になくたっていいの、黄瀬君は。隣にいてくれるだけで」
葵は穏やかな笑みを浮かべた。
なるほどねーと、聞いた割にはあっさりと返事をする高尾。
と、ここでただ二人の会話を聞き流していた緑間が痺れを切らして立ち上がった。
「のろけとは気分が悪い。俺は行くぞ」
「ちょ、真ちゃん!?」
「待って緑間君!お願いがあるのっ」
葵が慌てて引き止める。
用があったのは緑間の方だった。
「お願いだと?俺に?」
「そう。そのために声をかけたの」
「真ちゃんにお願いって?」
葵はちょっと言い難そうに視線を下げ、おずおずと口を開いた。
「あの…急に厚かましいとは思うんだけど……洋服選びに付き合ってもらえないかなって…」
高尾と緑間が、当然二人して首をひねる。
葵はもう一度急にごめんねと謝ると、事情を話した。
「黄瀬君に洋服プレゼントしようと思ってきたはいいんだけど、サイズがわかんなくて…。緑間君、同じくらいだよね?合わせるの手伝ってくれない?」
葵は、黄瀬にプレゼントをしようとショッピングモールまで出てきたのだ。
そこでプレゼントを洋服と決めたはいいが、いざ選んでみるとサイズが全く分からないことに気付く。
幸男のサイズは参考にならないし、どうしようと悩んでいたところへ目に入ったのが緑間だった。
身長は緑間の方が高いが、そこまで大きく変わらないだろう。
お願いしますと両手を合わせる葵だが、緑間は案の定嫌々顔だ。
「なぜ俺がそんなことを…」
「いいじゃん真ちゃん。ちょっとサイズ合わせるだけだし」
「断る」
「そんなこと言わずにさぁ、女の子が困ってんだぜ?」
高尾の説得にも、緑間は顔を背けたまま。
葵はここで、自分の鞄を探り出した。
「お願い緑間君。聞いてくれるならこれ、あげるから」
「?…こ、これは…!」
緑間が眼鏡をキラリと光らせた。
葵の取り出したもの、それは
「ピンクのヘアゴム。今日のラッキーアイテムだよね?これ買いに来たんでしょ?」
緑間の占いに対する崇拝ぶりは、黄瀬からよく聞いていた。
おは朝占いは葵もたまに見る。今朝もたまたま目にし、ラッキーアイテムについて知っていた上で、緑間のどこを見てもピンク色がない。
ポケットに入れていたのかもしれないが、反応からしてやはり持っていなかったのだろう。
事実、さすがの緑間も、ピンク色は持っていなかったらしい。
しかもピンク色のヘアゴムともなれば、男性が買うには少し抵抗がある。
一瞬躊躇していた緑間も、やがてヘアゴムを受け取った。
「…引き受けよう」
「ありがとう!」