アオハルデイズ

□恐怖の創立記念日(前編)
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今日は朝から生徒全員、体操着だった。
なぜかというと、今日一日球技大会だからである。

と、話はそれるが黄瀬と葵が付き合ってそろそろ約二ヶ月。
しかし実際、それを知っているのは一部のバスケ部員と、葵の親友一名のみ。

と言うのも、仲良さそうに二人で帰っている姿を目撃されつつしかし付き合っていないんだよというのが一学期のころ事実としてあり、しかも初めにナイショにしてしまったのも相まって、黄瀬がいくら葵にひっつこうが未だ仲が良い二人で済まされてしまうからだ。
しかもクラスが遠く、昼は誰も知らない場所、放課後は黄瀬が部活のため、校内で二人でいることが滅多にない。


そこで黄瀬は思った。
葵が自分と付き合っているのがきちんと知られれば、葵に近寄ろうとする男も減るのではないか。
そもそも、葵がフリーだと思われているから男達も諦めないんじゃないかと。

そろそろ落ち着いてきたし、付き合ってることをばらしても大丈夫なんじゃないか。
ここはひとつ、葵は俺の彼女だ宣言でもして、周りの男達の度肝を抜いてやろうじゃないか。


「……」


そしてぶち当たる壁。
(――どうやって?)

黄瀬は教室で机に頬杖をつきながら頭を悩ませる。
とそんなところへ、前の席に座っている同じくバスケ部員、葵を初めて見つけたときも一緒にたあのクラスメートが、おい黄瀬ー、と椅子の背を傾けながら振り向いてきた。


「なんスか?俺今考え事中」

「ははっ、柄にもないこと言うなよー。ほい」

「…?なんスかこれ」


ほい、と渡されたのは、見覚えのある紋章を模ったバッジだった。


「これって、校章?なんで今?てか校章なら持ってるっスけど」

「創立記念デザインだってさ。ほら、今日創立記念日だろ?球技大会が終わった後記念式典やるし」

「あぁ…」


黄瀬は思い出したように相槌を打った。
そんな黄瀬の耳に、隣の女子のキャピキャピした声が耳に入る。
ねーねー知ってる?と前の席の女子生徒にワクワクした顔で話しかけていた。


「創立記念の花火の下でこの校章を交換したカップルは、永遠に結ばれるんだって!」

「そうなの!?」


(あーよくある校内ジンクスか)
と、黄瀬は大して気にも留めなかったが、


「で、そこで結ばれたカップルは学校公認のカップルになるから、誰も手出しできなくなるの!」


その言葉を聞いた途端、目の色を変えてそれ本当!?と隣の席に身を乗り出した。

急なことに体をビクつかせた女子生徒だが、すぐに頬を赤くして胸キュン乙女の姿になりながら、うん、と頷いた。


「学校が終わってからだけど、夕方五時から数発の記念花火が上がるの。その花火と同時に校庭の中心で校章を交換すれば、晴れて公認カップル!」


(これだ!!)
黄瀬は心の中でガッツポーズをした。

その女子生徒によると、創立記念日は毎年球技大会の後に行われ、放課後はそのジンクスにのっとって大賑わいらしい。むしろこちらがメインイベントになりつつあるのだとか。
特に今年は創立何周年がキリのいい数字であったため特別の記念校章が作られ、ジンクス効果が倍増になると、例年に比べていつにない盛り上がりを見せているらしい。

 
黄瀬はこの絶好のチャンスを逃してたまるかと、心に決めた。
まぁ校庭だけに人目を浴びるため葵がなんと言うかは分からないが、ここで学校公認のカップルになって葵に近付く男を退けてやる!と意気込んだ。



しかしその意気込みは、数時間後見事打ち砕かれることとなる。


 
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