おとなりさん。

□1杯目
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その人の名前は赤司征十郎君というらしい。
「何それ、どこかのお坊ちゃま?」
「実際お坊ちゃまだよ、あいつは。“キセキの世代”いるだろ?あん中の一人」
「じゃあ、バスケ上手いんだ?」
「天才」
「そんな人が何でここに、ねぇ?ここら辺、プロのチームがある訳でもないし」とぼやいた。「何か飲む?」
「あ、俺?甘いの」
二人暮らしながら、本格的にコーヒーを淹れる器具は揃っている。コーヒーミルはあるし、豆だって五、六種類は常備してある。コーヒー好きな姉弟なのだ。
「シナモンいる?」
「いる」
絶対的甘党の弟でも、コーヒーは好き。砂糖たっぷりのを毎日毎食、大学にも水筒に入れて持って行く。コーヒー専用の水筒なんてのが発売されてるから、日本は凄い。
モカチーノ  コーヒーにチョコレートシロップを混ぜ、ホイップクリームを浮かべてその上に削ったチョコレートを散らせ、シナモンスティックを添えたもの  を淹れた。
「はいよ」
「ありがと」
ソファに並んで座り、モカチーノをすする。
「美味ぇな」
「美味しいね」
甘いコーヒーの苦味は、後からじわじわと口の中に広がってきた。
×××
「隣に引っ越してきた、赤司征十郎と申します」
短髪赤髪の少年は、私を見下ろしてから見上げた。見上げたのは弟か。
「宮地杏奈と、弟の……」
「宮地清志」清志は無愛想に挨拶をした。「久しぶりだな、赤司」
「お久しぶりです。あの時の決勝以来ですかね」
「お前、まだバスケやってんの」
「いえ、父の仕事を受け継ぐので」
「お坊ちゃまか」
「そう言われれば否定はしません」
会話が途切れた所で私が「後輩?」と清志に尋ねると、「俺、最後のウィンターカップでこいつに負けた」と言われた。悪いこと聞いちゃったな。
赤司君は、私を見るとふんわりと笑った。大抵の女の子が堕ちちゃいそうな営業スマイル。
「これ、つまらないものですが」
「あ、ありがとう」
手渡された紙袋は、高級な、でも申し訳ないと思わない程度のブランドのクッキーの袋だった。
「これからよろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
「おう」
「では」
手を振ってドアの向こうに消えて行った赤司君を見送り、清志とリビングに戻る。
「何それ、クッキー?」
「うん。コーヒー淹れるね」
「お、さんきゅ」
箱を開けると、カラフルなクッキーがたくさん入っていた。赤いのはイチゴ、緑のは抹茶かな。バニラやチョコなんていうスタンダードなのからブドウまで、様々。
「すげー、美味そ」
「ねー。何かお返ししようかな」
クッキーの箱をテーブルに置き、壁のコーヒー専用の棚を開ける。甘いクッキーには、酸味が強いコーヒーはどうだろう。
×××
宮地のお姉さん。宮地に姉貴呼びされてみたいぜ!← さあ、赤司君とどうくっつけましょうか…よろしくお願いします。

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