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「着いたよ」
遠出するのもこれからはなかなか出来なくなるだろうって事で、征ちゃんが連休と仕事の休みを利用して温泉に連れて行ってくれた。新婚旅行は出来なかったから、これから色んな所に旅行に行こうねって言ったら、そうだな、って。行き先の温泉旅館は、征ちゃんご用達の老舗旅館。
「ねーねー、部屋に温泉ある?」
「絶景の露天風呂があるらしいな」
「本当!?早く入りたーい」
「まだ昼の二時だよ」
受付を済ませて部屋に入ったら、本当に露天風呂があった。旅館は山中にあるので、麓の街の景色が一望出来る。
「まだ時間は早いし、そこの神社まで散歩しないか?」
「いいけど、何で?」
「お守りを……、ね」
何だか嬉しくなって、思わず征ちゃんに抱きついた。ちょっとびっくりはしてたけど、しっかり受け止めてくれたから、まあいいや。征ちゃんは私の頭を撫でながら言った。
「ご神体も、安産祈願の神様だっていうしね」
×××
「どっち……、だ?」
いざお守りを買おうとして迷った。男の子用と女の子用がある。検診では性別は確認出来ていたが、私も征ちゃんもあえてエコーは見ず、性別も聞いていなかった。だから、お腹の中の状況がよく分かっていない。
「性別が分からないようでしたら、そちらの絵馬なんかはいかがでしょう」
神社の巫女さんが差し出したのは、小さく可愛いうさぎのイラストが描かれた絵馬だった。
「ここのご神体はその昔、この地域に生息する野生のうさぎに育てられたという言い伝えがありまして、愛情や慈愛といった意味で、うさぎが描かれております」
「これがいい!」
征ちゃんは何も言わずににこにこと笑っていた。私はお金を出して絵馬を買った。巫女さんがペンを貸してくれた。
「先書いてもいい?」
「いいよ」
借りたペンですらすらと文字を書く。最後に署名して、征ちゃんに手渡した。
「……これは何だ」
「思った事をそのまま書いただけー」
「はぁ。僕も正直に書こうかな」
征ちゃんは私に見えないように絵馬に文字を書くと、私の手が届かないような所に結びつけた。
「あーっ、見れないじゃん!」
「帆稜があんな事書くのが悪い。精々頑張って見るんだね」
「うわー、ないわー」
風に揺られた絵馬が、隣の絵馬とぶつかってからころと音をたてた。
(征ちゃんに似たかっこいい男の子が欲しい! 赤司帆稜)
商店街を散策して部屋に戻り、二人で温泉に入った。
「あったかい!」
当たり前だろう、とでも言いたげな征ちゃんを軽く無視して、肩まで湯に浸かる。本当にあったかい時、人はあったかいとしか言えないのだ。
「帆稜、出てきたな」
「まあ、そうだね」
お腹を軽くさする。最近目で確認出来るほどには膨らんできたお腹からは、まだ何も感じない。ただ、命がそこにあることは確かだった。
「どっちだろうね」
「ん?」
「男か女か」
「……女の子がいい」
「やだ!男の子!」
お湯の中で足をばたつかせる。少しお腹の中で何かが動いた気がしたから、多分一緒に足をばたばたさせているんだろう。
「どっちでもいいじゃないか」
「ん?」
「無事に生まれてきてくれれば。僕と帆稜の子供なんだから」
征ちゃんの肩にもたれかかって、お湯の中で手を繋いだ。お腹の底がどくんと強く脈打った。
(帆稜みたいに綺麗な女の子が生まれてきますように 赤司征十郎)
×××
「命に関わる事なので言わなければいけないんですが」
二人で行った定期検診で、何やら医者が深刻そうな顔をしている。
「性別の事なんですが」
「はい」
「両方なんですよ」
「……は?」
見せられたエコーのある部分を医者が指し示す。大きな白い部分で頭のようだが、それが二つある。らくだのこぶみたいに、ぼこぼこと。
「まさか、奇形児?」
「いや……、二人いるんですよ」
もう性別は一人ずつだと分かっているんですがね、
「双子なんですよ」

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